「硝子の月」 DiaryINDEX|past|will
やさしいばかりの暮らしではなかった。けれど憎みきれるほどに悲しい日々でもなかった。 「まぁ、いいんだけどさ」 少女は右手のカードを唇に、仕方なさそうな溜息をついた。 「これがあたしの運命だって言うんなら」 「ルウファ。嫌ならおやめ」 薄暗いテントの中で、卓を挟んだ向かい側に座る老婆が視線だけをちらりと上げる。 「嫌じゃないわよ、別に。嫌じゃないわ」 そう言う割には「不本意だ」と顔に書いてある。 「行くわよ。行かなきゃ始まらないんだし。どうしたってあたしの人生だし」 半ば以上独り言のように呟きながら卓の上に広げてあったカードをまとめ、荷物の中へ。彼女の服装は旅をする為のものだ。
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