「硝子の月」
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「怒鳴んなよ。オッサンのくせにおと…」 「『オッサン』じゃねぇ」 「……はい」 本当は『大人気ねぇ』と続けようとしたのだが、何やら物凄い迫力で顔を近付けられたのでやめてやった。その上珍しく素直な返事までしてやったのだからティオにすれば大サービスである。 (何かよっぽど嫌な思い出でもあんのかな) 「で、お前は?」 「いや別に」 そんなにいい生活ではなかったが、ここまでむきになるようなことは今のところない。 「は? 名前訊いてんだよ俺ゃぁ」 「ああ、そっか」 噛み合わない会話に眉根を寄せた男を見て、本来の話題を思い出す。 相手が名乗った以上はこちらも名乗るべきであろう。おそらくはそれが礼儀と言うものだ。 「ティオ・ホージュ。こっちがアニス。今度攫おうとしたらマジぶっ殺ス」 名前の他にちょっとした注意事項も付け加えておく。 「あーはいはい、悪かったよ」 うんざりとした様子で何杯目かわからない果実酒をあおって、グレンと名乗った男は溜息をついた。 「スープおかわり」 「まだ食うのか」 「オッ……あんたと違って食べ盛りなんだよ」 ただ飯を食い溜めしておこうという魂胆もある。 「……お前、家出人か」
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