「硝子の月」
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2001年10月19日(金) <月下> 瀬生曲、朔也

「しけてるわねぇ」
 満月を背にして少女は溜息をついた。見下ろす先には返り討ちにしてやった盗賊。
「人を襲っといて自分はこれしか持ってないわけ?」
 持っていないから他人様を襲うのだと思われるが……
「ったく……余計な時間食っちゃった」
 盗賊の財布の中身を手のひらにあけて「割に合わないわ」と呟く。が、ないよりはましと開き直り、自分の財布に入れる。
「じゃあね、おじさん達。次から人を見掛けだけで判断しちゃ駄目よ」
 彼女が身を翻すと、しゃらんと鈴の音がした。


 辺りに家の一軒も見えない長い道を、彼女は一人歩く。
 月のひかりにさらされた道がしろくひかった。月そのものの上を歩いているような気にさえなり、軽く目をほそめ。
「…やってらんないわね」
 軽くため息を吐く。
 女、しかも軽装の少女の一人歩き。月の明るさは行く手を照らしてくれるけれど、それ以上に格好の獲物の存在を示してしまうもので。
 実際のところ、旅に出てから出会った盗賊の数は、一組や二組の騒ぎではなかった。
 まぁその全てを叩きのめしてはきたが、有体に言って、

「うざったいったらないわよッ!!」
 唐突に、彼女は月に向かって叫んだ。

「世の中舐めてるの!? 働きもせずにいたいけな女の子襲おうなんて、どうしてこう揃いも揃って馬鹿ばっかり!!
 大体武器持ってればそれだけで強いと思ってるのが馬鹿すぎってどうしてわかんないのよああ馬鹿だからね知ってるけどいい加減にして欲しいわよまったく!!」

 ノンブレスで10秒プラスマイナス2。フラストレーション爆発である。
 その「いたいけな女の子」を襲って返り討ちに合った盗賊たちからせしめた金品で、ちりも積もればなんとかと言うか、そこそこ懐は暖かくなった。

 しかし、よるとさわるとうじゃうじゃうじゃうじゃと現れる、(彼女曰く)きたないオヤジたちには心底うんざりだった。
「こうなったら一刻も早く! 街にたどり着いてやるからねッ!!」
 決意も新た、彼女はキッと道の先を見据えた。


紗月 護 |MAILHomePage

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