「硝子の月」
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「ルウファー? どうして先行っちゃうんだよ」 ふよふよと宙に浮きながら青年が追いかけてきた。 性質の悪い亡霊にでも付きまとわれているようで更にイライラする。…もっとも、悪霊と言われればそうかと納得しないでもないが。 「歩きなさいよアンタ! ものぐさしないで! いつもいつもいつもふよふよだらだらと空に浮かんでんじゃないわよ、いくら煙とナントカだからってッ!!」 ついにキレて怒鳴ると、青年はきょとんと目を瞬かせた。 そしてややあって、そこにぱっと希望───だかなんだか───の光を灯し、何を言う間もなくこちらの手を握ってくる。 「そうか! 俺と一緒に歩きたくて拗ねてたんだねルウファ! 気付かなくてすまなかった俺としたことが!」 「───…」 ルウファは一瞬、かなり本気で青年に致命的なダメージを与える瞬間を思い描いた。 実際そうしてやろうかという気分をギリギリ、コップに注いだ水の表面張力程度にギリギリ、押さえ込む。もっとも今この瞬間にそれが零れてもいいような気も、同時にした。 「シオン───…」 名前を呼ぶ。まるで何かを諦めきったような心地で。 花が咲き零れるように鮮やかに微笑みながら、彼女は囁いた。
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