「硝子の月」
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「何だあれ……」 「目を合わせないほうがいい類の人間だな」 グレンの言うことには同感出来たので、ティオはこくりと頷いた。青年が今ので自分をからかうのをやめたことについてほんの少しだけ、突然現れた変人に感謝しておく。 「……おや?」 目当ての人物がいなかったのか、謎の青年はきょろきょろと食堂を見回した後に小首をかしげ、それからぽんと手を打った。 「そうか。君はまだ眠りの中にいるのだね。そして僕の口付けを待っていると! はっはっはっ。かわいいお寝坊さんめv」 「もしもしお客さん……?」 一人で何やら納得すると、さっさと奥の階段から二階に登っていく。物凄く嫌そうに、それでも「これも仕事だから仕方がない」と言わんばかりに折角声を掛けた宿屋の親父はさっくりと無視された。 「…………」 「…………」 ティオもグレンも黙々と朝食片付ける。もちろんティオは時々アニスに分けてやることを怠らない。 「出てけーっ!!」 ガタガタガッターン!! 少女の声に続いて物凄い音を立てながら何かが階段を転げ落ちた。 「あれが『階段落ち』って言うんだぞ。一人じゃ物足りんがな」 食事の手は休めずに、グレンがぼそりと言った。
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