「硝子の月」
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「人の部屋に勝手に上がりこむとはいい度胸ね」 階段の上に声の主が姿を見せた。赤い髪を高く結わえた気の強そうな美少女である。 「店主!」 「はははは、はいっ!」 その迫力に気圧されて、三、四回りは年下の少女に直立不動で応える宿屋の主人。 「この店の防犯はどうなってるわけ?」 「そうはおっしゃられましても、こちらは止める間もなく登って行かれましたし、お連れの方のようでしたし……」 「連れじゃない」 「ハイ……」 彼女はゆっくりと階下に降り立った。 「安眠妨害されたんですもの。宿代まけてくれるわよね?」 花のほころぶような笑顔を向けられた宿屋の主人こそ災難であった。 (気の強ぇ女。がめついし) ピィ ティオの思ったことに同意するかのようにアニスが鳴いた。
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