「硝子の月」
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2001年11月22日(木) <交差> 宮本祐樹、瀬生曲

今まで、コントに注がれていた客の視線がティオに向けられた。
グレンはというと、舞台に上げられてしまったティオとはまるで他人ですとでも言うように目線を逸らしつつ口に物を運んでいる。
仕方なくティオは青年のほうを向いた。
窓から差し込む朝日にきらきらと輝いたさわやかな笑顔…が向けられているが、床に倒れたときにできたらしいおでこの傷からだらだらと血が流れている。

 今この場で言うべきことはただ一つ。
「思わねぇ」
 予想だにしなかった現実こたえを突き付けられた青年は硬直し、その向こうで少女は「当然」と呟きつつ小さくガッツポーズを取った。
「よくぞこの勘違い男に言ってくれたわ。普通だと怖気付いちゃって駄目なんだけど。おじさん、この人達と同じのあたしにも」
 そして彼女は実に何気なく一緒のテーブルに着く。
「……おい」
「何?」
「何でここに来る」
 おかげで相変わらず客の視線は集中している。
「何となく」
「お前なぁ」
 文句の一つも言ってやろうと向き直ると、彼女は真っ直ぐにティオを見つめていた。
 濃く澄んだ紅玉ルビーの瞳。あまり真っ直ぐに見つめられるものだから、吸い込まれそうな錯覚を覚える。


紗月 護 |MAILHomePage

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