「硝子の月」
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2002年09月06日(金) <建国祭> 朔也、瀬生曲

「……さて」
 ああは言ったものの、とグレンは首をかしげる。早々と熱気のようなものに包まれた祭りの前の街で、探し物など楽ではない。
 首都だけあってさすがに人だらけだ。自分のような旅人も多い。
(どっから探す?)
 手ぶらで帰ったら、どっかの怪我人小僧にまた憎たらしい口を叩かれそうだ。ついでに赤毛の少女に笑顔で皮肉られそうだな、とちいさくため息を吐いていると。
「――なにを、探してるんだい?」
 ふいに後ろから、女の声がした。
「あァ?」
 グレンは振り返る。視線の先には、無骨な武具と美しいオリーブ色の肌の女が一人。
「お前――」
 傷だらけの女はそれでも不思議と美しく、そして気高い目をしていた。グレンは彼女を目にし、驚きに目を見開く。

「――誰だ?」
 どこかで会ったことがあるような奇妙な感覚。しかし彼女を忘れるようなことがあるだろうか。だから、「どこかで会ったことがないか?」という問いは飲み込んだ。
「いきなりそんな訊き方は不躾かと思うが?」
「ん、ああ、すまねぇ」
 青年はここでやっと、彼女の肩に捜し物が止まっていることに気が付いた。ルリハヤブサ――ただし漆黒の。色が違う以上、もしかしたら違う鳥である可能性もあったのだが、グレンは何故か疑うことなくそれをルリハヤブサだと判断した。
「彼は私の相棒だ」
 その視線に気付いたのか、女はルリハヤブサに頬を寄せて微笑した。
「……俺の捜し物はその鳥だ。少し話さないか? 奢らせてもらう」
「そこそこ無粋ではない誘いだな。いいだろう」
 青年の申し出を、女――カサネはあでやかな笑みを浮かべて受けた。


紗月 護 |MAILHomePage

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