「硝子の月」
DiaryINDEX|past|will
(……さて) とりあえず手近な食堂に入り、料理を注文して。グレンは不躾でない程度の視線でカサネと名乗った女を観察した。 明らかに堅気という雰囲気ではない。傭兵か、それとももっと他の何かかはわからないけれど。 よく考えると、ルリハヤブサを見つけてその後どうするのかを考えていなかった。 とりあえずティオの要望で追ってきてはみたが、これでただの偶然の通りすがりだったら笑うしかない。 (でも、まぁ……その可能性は低いな) グレンはわずかに目をほそめる。 ルリハヤブサ。月の下で尚鮮やかに青く染まる鳥。ティオは多分知らないことだが、この鳥には言い伝えがある。
ルリハヤブサはかつて、硝子の月を守る番人だった。だが彼らの上と地の上から硝子の月が失われたとき、彼らは翼を得、鳥の姿で次の硝子の月が生まれるのを待つこととなった。 それからこの種は、硝子の月の誕生を待ち、硝子の月を見出す標となったと言われている。
ハッキリ言って眉唾だ。自分だって、硝子の月にまつわる吐いて捨てるほどの偽の情報と信じて疑わなかった。 だから一度は盗んで売っ払おうとまで思ったのだが。 全部が嘘なわけではないのかもしれない。次々に何か大きなものを引き寄せていく少年を見ていて、思った。 伝説は何らかの真実を含んでいるのかもしれない。 ティオの元にアニスがいること、ルウファが同行したこと、そしてティオが狙われた事。偶然と呼ぶには規模が広がり過ぎている。 (そして第一王国の首都に、俺たちと同じ時期に――もう一羽ルリハヤブサが現れたことも) 偶然ではない。それがどんな形の必然かは、まだわからないけれど。
|