「硝子の月」
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「『話さないか』と言った割には何も言わんな」 口を開いたのはカサネのほうが先だった。揶揄するようにグレンを見る。 「それもそうだ。さっきも言ったとおり、俺の探していたのはその鳥だ。色は違うが――ルリハヤブサだろう?」 最後の言葉は心持ち声を潜めて問う。もっとも、カサネの容姿と大きな鳥を連れていることで、店の客の視線は既に一通り集まっていたのだが。 「よくわかったな」 言葉とは裏腹に、笑みを含んだ女の声は「わかって当然」と言っている。 「実は…」 どこまで言ってもよいものかと思案したのはほんの一瞬。 「俺の連れもルリハヤブサを連れていてな」 青年は正直にそう告げる。 「窓から偶然見かけたルリハヤブサに興味を持った。ルリハヤブサなんてそうそういるもんじゃねぇからな」 偶然――なのだろうか。世界に数十羽しか存在しないそれがもう一羽、あの少年の前に現れたのは。だが必然であるにしても、それは仕組まれたものではないのか。 「ほう」 彼女の多少わざとらしい感嘆の声が、グレンにその疑いを強めさせる。 勘は、鈍いほうではない。 「違っていたら悪いが……あんたあいつを――ティオ・ホージュを知ってるな?」 女の口元に笑みが浮かんだところで、テーブルの上に料理が並んだ。
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