「硝子の月」
DiaryINDEXpastwill


2002年09月09日(月) <建国祭> 瀬生曲

「『話さないか』と言った割には何も言わんな」
 口を開いたのはカサネのほうが先だった。揶揄するようにグレンを見る。
「それもそうだ。さっきも言ったとおり、俺の探していたのはその鳥だ。色は違うが――ルリハヤブサだろう?」
 最後の言葉は心持ち声を潜めて問う。もっとも、カサネの容姿と大きな鳥を連れていることで、店の客の視線は既に一通り集まっていたのだが。
「よくわかったな」
 言葉とは裏腹に、笑みを含んだ女の声は「わかって当然」と言っている。
「実は…」
 どこまで言ってもよいものかと思案したのはほんの一瞬。
「俺の連れもルリハヤブサを連れていてな」
 青年は正直にそう告げる。
「窓から偶然見かけたルリハヤブサに興味を持った。ルリハヤブサなんてそうそういるもんじゃねぇからな」
 偶然――なのだろうか。世界に数十羽しか存在しないそれがもう一羽、あの少年の前に現れたのは。だが必然であるにしても、それは仕組まれたものではないのか。
「ほう」
 彼女の多少わざとらしい感嘆の声が、グレンにその疑いを強めさせる。
 勘は、鈍いほうではない。
「違っていたら悪いが……あんたあいつを――ティオ・ホージュを知ってるな?」
 女の口元に笑みが浮かんだところで、テーブルの上に料理が並んだ。


紗月 護 |MAILHomePage

My追加