「硝子の月」
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建国王が『硝子の月』に願ったその日を、アルティアでは毎年建国祭として祝う。 「ですが、この国が『硝子の月』に願われたことを知る人はそう多くはありませんのよ。何故か『硝子の月』は秘密を好みますの。この国の人でも『第一王国』と呼ばれる由縁を知る者は少ないと申しますわ」
「なんで、俺がそんなこと……」 寝台の上に上体を起こして、ティオは小さく呟く。 遠くから建国祭を祝うものか、明るい音楽が聞こえてくる。 「アニス……」 少年は夢の中にはいなかった相棒のルリハヤブサを見詰める。彼は静かにこちらを見詰め返している。 「ずっと、そこにいたか?」 「ピィ」 その鳴き声は肯定を示していた。
「そんな秘密をお話いただいてもよろしかったんですか?」 ルウファが至極もっともな問いを発する。もし話して悪いことなら、忠実な従者が黙っているはずもないのだが。 アンジュはにっこりと微笑んだ。 「ええ。不思議なことに、この話を聞いても忘れてしまう人は忘れてしまうのです。だから広まりませんの。きっと『硝子の月』の仕業ですわね」 「でも貴女は覚えてるんですね」 「多分、これでも一応建国王の血筋だからだと思いますわ」 「なるほど」 ティオやグレンが聞いていたら耳を疑い、もしかすると卒倒しかねないお嬢様の発言を、ルウファはあっさりと受け入れた。 実はクリスティン家と言えば、古い時代に王家から分かれた名門貴族なのである。
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