「硝子の月」
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「お祭りの前って好きだわ」 唐突にルウファが言った。 窓から差し込む月明かりに微笑が浮かぶ。 「いつもと違う『力』が満ちていて。何だかわくわくしてこない?」 少年は黙って少女を見詰める。 「運命を知る」という少女には、何か『力』が満ちていると感じ取れるらしい。 「どう?」 小首を傾げて問い掛けられて、ティオは確かに自分もどこか浮き足立っているような感覚を覚える。 毎年建国祭はやってくる。けれど、楽しいと思ったことは一度もなくて、楽しみに思うこともなかった。 今年は今までの年とは違う。 ここは首都で、回りにいる人間も全然別で。変わらないのは、アニスが側にいることだけ。 旅に出てからずっと非日常が続いていたけれど、その上に更に祭りという非日常が覆い被さってくる。 「ご飯作ったの。食べる?」 「……ああ」 また唐突に話題が変わって、ティオはこくりと頷いた。
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