「硝子の月」
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2002年11月07日(木) <建国祭> 朔也

 街はざわめきに満ちている。これからまさに始まらんとする祭りのために。
 浮かれ酔いしれ、人々の目にも口にも常にない熱気が立ち込める。
「……こんな大きな祭り、初めて見た」
 どことなく落ち着かなげに辺りを見回すティオに、ルウファは小さく笑った。
「そりゃあね。なんたって建国祭だもの。
 延々と田舎に引っ込んでちゃ、一生かかったって見られないわよ」
 途端にティオが面白くなさそうな顔つきになる。
「……悪かったな田舎者で」
「あら。あたしだって割と辺境の生まれよ」
「? ……そうなのか?」
「そう。魔法王国の端っこでね」
 魔法王国。これまでろくに村を出たこともなかったティオにとっては、想像もつかないほど遠い国だ。
 ティオは目を瞬かせる。これまであまり考えたこともなかったが、よく考えればルウファも年の割に随分と旅慣れている。
「おまえさあ」
「……ん?」
「なんで俺たちについて来たんだ?」
 気が付けば疑問は、するりと口を突いて出た。はぐらかされてばかりだった当たり前の問い。
「俺の何を知ってる?」
 ティオ・ホージュ。自分の名前を聞き、旅の同行を申し出た少女。
「お前、俺のことどう思ってるんだ?」
 いつかした質問。あの時は真意を見えない笑みと共に「好き」と言われたけれど。
 ティオは目をほそめる。少女の目の奥に何かを見定めようとするように。
「――ホントに仲間だと、思ってるのか?」
 何も語らない少女。多分何かを知っている少女。
 彼女の何かを捕らえようとするように、しばしまっすぐに視線を向けた。


紗月 護 |MAILHomePage

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