「硝子の月」
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街はざわめきに満ちている。これからまさに始まらんとする祭りのために。 浮かれ酔いしれ、人々の目にも口にも常にない熱気が立ち込める。 「……こんな大きな祭り、初めて見た」 どことなく落ち着かなげに辺りを見回すティオに、ルウファは小さく笑った。 「そりゃあね。なんたって建国祭だもの。 延々と田舎に引っ込んでちゃ、一生かかったって見られないわよ」 途端にティオが面白くなさそうな顔つきになる。 「……悪かったな田舎者で」 「あら。あたしだって割と辺境の生まれよ」 「? ……そうなのか?」 「そう。魔法王国の端っこでね」 魔法王国。これまでろくに村を出たこともなかったティオにとっては、想像もつかないほど遠い国だ。 ティオは目を瞬かせる。これまであまり考えたこともなかったが、よく考えればルウファも年の割に随分と旅慣れている。 「おまえさあ」 「……ん?」 「なんで俺たちについて来たんだ?」 気が付けば疑問は、するりと口を突いて出た。はぐらかされてばかりだった当たり前の問い。 「俺の何を知ってる?」 ティオ・ホージュ。自分の名前を聞き、旅の同行を申し出た少女。 「お前、俺のことどう思ってるんだ?」 いつかした質問。あの時は真意を見えない笑みと共に「好き」と言われたけれど。 ティオは目をほそめる。少女の目の奥に何かを見定めようとするように。 「――ホントに仲間だと、思ってるのか?」 何も語らない少女。多分何かを知っている少女。 彼女の何かを捕らえようとするように、しばしまっすぐに視線を向けた。
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