「硝子の月」
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「そ……」 ティオは咄嗟に口を開いた。何を言おうというのか。そんなことは自分でもよくわからない。 ただ焦燥のようなものにかられて声を上げたとき。 「静粛に!」 凛とした声が上がる。周囲のざわめきが、嘘みたいに一瞬に消えた。 「皆、よく集まった……今日は建国祭。かつての建国王アルバート一世がこの王国を打ち立てた日!」 魔法で増幅された声が広場に響いている。それとも機械を使っているのだろうか。 どちらにせよ、やや小柄なティオからでは、人込みに遮られてどこから誰が喋っているのかさえも見えない。 「皆の者、忘るるでないぞ! 彼の王の偉業を! 悲劇に満ちた戦乱の世に終止符を打った我等が王の名を! この国は第一王国、誇り高き勇者の国! 忘るるな、我等は永久に、この大陸の平和を守るのだ! かつて最初の王が勝ち取った平和を、この国と共に!」 (アルバート) ティオの記憶が一瞬混乱した。夢の中で見たかつての王の顔が、鮮やかに甦る。 「我等がアルティアに、栄光を!」 わっと歓声が沸き起こり、全ては始まった。 祭りという名の舞台が、ここから。
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