「硝子の月」
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2002年11月17日(日) <建国祭> 朔也

「そ……」
 ティオは咄嗟に口を開いた。何を言おうというのか。そんなことは自分でもよくわからない。
 ただ焦燥のようなものにかられて声を上げたとき。
「静粛に!」
 凛とした声が上がる。周囲のざわめきが、嘘みたいに一瞬に消えた。
「皆、よく集まった……今日は建国祭。かつての建国王アルバート一世がこの王国を打ち立てた日!」
 魔法で増幅された声が広場に響いている。それとも機械を使っているのだろうか。
 どちらにせよ、やや小柄なティオからでは、人込みに遮られてどこから誰が喋っているのかさえも見えない。
「皆の者、忘るるでないぞ! 彼の王の偉業を!
 悲劇に満ちた戦乱の世に終止符を打った我等が王の名を!
 この国は第一王国、誇り高き勇者の国!
 忘るるな、我等は永久とこしえに、この大陸の平和を守るのだ! かつて最初の王が勝ち取った平和を、この国と共に!」
(アルバート)
 ティオの記憶が一瞬混乱した。夢の中で見たかつての王の顔が、鮮やかに甦る。
「我等がアルティアに、栄光を!」
 わっと歓声が沸き起こり、全ては始まった。
 祭りという名の舞台が、ここから。


紗月 護 |MAILHomePage

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