「硝子の月」
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人込みの中に立ち、彼は軽く眼鏡を押し上げる。銀灰の目は険のある形に歪み、くすんだ銀の髪が風にたなびいた。 「――フン」 少年は軽く鼻を鳴らす。本来ならこんな人込みになど、自ら訪れたりはしない。 それを押してここを訪れた理由はひとつ。 「次は――失敗しない」 囁き声が、零れる。 他人の思惑も密かな企みも、自分には関わり無いこと。もうたくさんだ。 全て終わらせてやればいい。鳴動する嘘と真意の中心にあるものを叩き壊して。 そうすれば契約は終了、貸しも借りも面倒臭い制約もなく自由の身になる。 後のことなど知ったことではない。 (今度こそ) 第三の力を発動させる隙など与えない。あれがどういった経緯の力であったにせよ。 気付かぬ内に殺してしまえば、力などなんの役にも立たない。 (殺してやるよ) 彼は薄く微笑む。寒気のするような表情で。 (殺してやるよ――ティオ・ホージュ) その目は群衆の向こうを見据えた。まるでそこに、自分の標的が見えでもするように。
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