「硝子の月」
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2002年11月30日(土) <建国祭> 朔也

 人込みの中に立ち、彼は軽く眼鏡を押し上げる。銀灰の目は険のある形に歪み、くすんだ銀の髪が風にたなびいた。
「――フン」
 少年は軽く鼻を鳴らす。本来ならこんな人込みになど、自ら訪れたりはしない。
 それを押してここを訪れた理由はひとつ。
「次は――失敗しない」
 囁き声が、零れる。
 他人の思惑も密かな企みも、自分には関わり無いこと。もうたくさんだ。
 全て終わらせてやればいい。鳴動する嘘と真意の中心にあるものを叩き壊して。
 そうすれば契約は終了、貸しも借りも面倒臭い制約もなく自由の身になる。
 後のことなど知ったことではない。
(今度こそ)
 第三の力を発動させる隙など与えない。あれがどういった経緯の力であったにせよ。
 気付かぬ内に殺してしまえば、力などなんの役にも立たない。
(殺してやるよ)
 彼は薄く微笑む。寒気のするような表情で。
(殺してやるよ――ティオ・ホージュ)
 その目は群衆の向こうを見据えた。まるでそこに、自分の標的が見えでもするように。


紗月 護 |MAILHomePage

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