「硝子の月」
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「宰相閣下」 頭からすっぽりと黒い布に覆われた女が、貴賓席にどっしりと座った男の後ろに控えるウォールランの背後に現れた。 彼女が何かを口にするよりも早く、彼は己の主に気付かれぬように唇を笑みの形に釣り上げる。もっとも、優雅なはずの貴賓席を小さく見せている中年の男は眼下に繰り広げられている舞に目を奪われていて、ウォールランの笑みはおろか女の登場にも気付いてはいまい。 「ああ、『ツイン』が動いたか」 「……ご存知でしたか」 青年の言葉に、女が苦笑したのが気配でわかる。
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