「硝子の月」
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2003年01月08日(水) <発動> 瀬生曲

 城の近くで標的を見付けた少年は、ついと眼鏡を押し上げた。
 この人混みにあってさえ人目を引く赤い髪の少女と一緒の、ルリハヤブサを連れた少年。
(楽しんでいられるのもこれまでだ)
 口の端を吊り上げ、肩下げの鞄をそっと開ける。その中から、微かな羽音を立てて銀色の羽虫が数匹。
「……目標捕捉」
 顔の高さで浮遊する<虫>達に小さく告げる。応えるように羽音が高く激しくなる。周りの人々が流石に何事かと少年と奇妙な虫達を見下ろす。
 しかし、そんなことなど気に掛けずに、ツインは命令を下した。
「撃て」
 <虫>達はいつもどおりに白い閃光を発し、標的を一瞬で仕留める――はずだった。
 しかしそれ等はエネルギーを溜め込んだかのように自身が白く発光し、膨張する。
「!? 馬鹿なっ!」
 人々の視線が集まる中、青冷めるツインが思わず叫んだのは恐怖によるもの。自分が作った、全てを知り尽くしているはずの機械に、有り得ないはずの『力』が集積している。
『だってそんなんじゃあ足りないもの。殺したいんでしょ? あの二人』
「なっ!?」
 不意に頭に響いた少女の声に問い返す暇もなく。
『だから手伝ってあげる』
 彼女が残酷に微笑んだことが声でわかった。
 そして少年にとって、それが最後の記憶となる。
「っひ……っ!」
 エネルギーの固まりと化した機械仕掛けの羽虫達は、広場を白い閃光で埋め尽くした。


紗月 護 |MAILHomePage

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