「硝子の月」
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城の近くで標的を見付けた少年は、ついと眼鏡を押し上げた。 この人混みにあってさえ人目を引く赤い髪の少女と一緒の、ルリハヤブサを連れた少年。 (楽しんでいられるのもこれまでだ) 口の端を吊り上げ、肩下げの鞄をそっと開ける。その中から、微かな羽音を立てて銀色の羽虫が数匹。 「……目標捕捉」 顔の高さで浮遊する<虫>達に小さく告げる。応えるように羽音が高く激しくなる。周りの人々が流石に何事かと少年と奇妙な虫達を見下ろす。 しかし、そんなことなど気に掛けずに、ツインは命令を下した。 「撃て」 <虫>達はいつもどおりに白い閃光を発し、標的を一瞬で仕留める――はずだった。 しかしそれ等はエネルギーを溜め込んだかのように自身が白く発光し、膨張する。 「!? 馬鹿なっ!」 人々の視線が集まる中、青冷めるツインが思わず叫んだのは恐怖によるもの。自分が作った、全てを知り尽くしているはずの機械に、有り得ないはずの『力』が集積している。 『だってそんなんじゃあ足りないもの。殺したいんでしょ? あの二人』 「なっ!?」 不意に頭に響いた少女の声に問い返す暇もなく。 『だから手伝ってあげる』 彼女が残酷に微笑んだことが声でわかった。 そして少年にとって、それが最後の記憶となる。 「っひ……っ!」 エネルギーの固まりと化した機械仕掛けの羽虫達は、広場を白い閃光で埋め尽くした。
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