「硝子の月」
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2003年01月25日(土) <発動> 瀬生曲

 ガタンと音を立てて、国王は席を立った。
 急に不作法に及んだ今日の主役に、全員の視線が一気に集まる。
 肖像画に残る建国王によく似ていると言われる、王としてはまだ若い男である。その青い瞳が驚愕に見開いている。
 何事かに気付き、催事場を囲むその右隣の辺に座していた少女――アンジュが王に何かを訴えるような眼差しを向けるのと、城壁の外側で何かが炸裂したかのような閃光が溢れるのとは同時だった。
 光に一瞬遅れて、衝撃と轟音が辺りを襲う。式典会場はたちまちパニックになった。
「皆様、御静まりください。この城には幾重にも防護壁が張り巡らされています」
 我に返った王が凛とした声を張り上げる。その様子から先程の驚愕は読み取れない。騒ぎが幾らか治まる。
 アンジュは小さく息をついて胸を撫で下ろした。王がこちらに微笑を向けたのが見え、同じく微笑を返す。
 その視界の端に、白いマントが翻るのがちらりと見えた。


紗月 護 |MAILHomePage

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