「硝子の月」
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2003年02月08日(土) <発動> 黒乃一三

「リディア・・・」
 気が付くと、アンジュのすぐ隣に雪のような麗人がいた。
 礼服に合わせた白地のマントを羽織り、腰には細剣(レイピア)()いている。ところどころに嫌味なく施された金糸の刺繍とペリドットのブローチが目にも鮮やかで、鞘と護拳には微細な花蔓が彫金されていた。建国祭に合わせた盛装である。
 あくまで従者としての立場をわきまえ、華美から一歩引いた服装だが、そのセンスは典雅の一言に尽きた。
 アルティアの第8王位継承権保持者。アンジュ・アルティアート・クリスティンが従者にして、心寄せる親友とも
 彼女の名を、リディア・ニースと言った。
「ご無礼を・・・。私にも、外の異変が感じられましたので」
 貴賓席に立ち入れないリディアは離れて控えていたはずだが、その鋭敏な感覚は主の危機を素早く察知したようだ。
 軽捷けいしょうなること隼のごとく。第一王国が尊ぶ美徳の一つを、彼女は若くして持っているらしい。
「無礼だなんて・・・。ありがとう、リディア」
 掛け値無しの感謝に微笑みを添えて、アンジュは友の働きを労った。


紗月 護 |MAILHomePage

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