「硝子の月」
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「外でおかしな気配がするわ」 アンジュは憂えた目でそっと遥か外を見遣る。 ここからでは街の様子を伺うことはできない。けれど、リディアの感覚には目で見える以上のものが鮮明に視えている。 「……何か……とても大きななにか」 「……お嬢様」 リディアは気遣うようにアンジュの横顔を見遣った。 「動き出してしまった……?」 アンジュは尚も独りごちる。眉宇はひそめられ、小さな不安のようなものを感じさせる。 「何かが、動き出してしまった」
音が聞こえない。 何も聞こえない。 熱さもない。 寒さもない。 (ティオ) それはなに? (ティオ、駄目よ。起きて) この声は誰? 何も見えない。 光だけが見える。 白い光。 しろいしろい、ひかり。
「ここは――どこだ?」
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