「硝子の月」
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2003年05月30日(金) <発動> 黒乃一三

「そ、そんなことより。一体なにがどうなってんだ?」
 話の行き先にあらぬ危険を感じたせいかもしれないが、グレンは当面の話題を戻した。
「王城に行くだけだ。お前も感じたのだろう?」
「…王城?」
 まだ怪訝なグレンだったがカサネは何も言わず、すっと指で示した。それを追って4人の視線がレンガの町並みから一段高い所に注がれる。
 街を見下ろす白亜の王城には、高くせり出した3つの尖塔と強固な城壁が備えられ、城下のどこにいてもその揺ぎ無い威容が見て取れた。今日の青空の下、ますます白く映えるその姿は、国民にとって何より心強いものであったろう。この国の平和と安定をどこまでも約束してくれるものに思えたはずだ。
 しかし――
「来たか…」
 ぽつりと、カサネが呟く。
「「来た…?」」
 グレンとティオが同時に彼女に振り向く。
 その背後で凄まじい閃光と爆発音が生じた。
 驚いて視線を戻す男たちの目に入ったのは、巨大な熱塊。それが、城壁に雨あられと降り注ぐ有様だった。爆風は熱を捲いて振動し、衝撃がびりびりと鼓膜を打つ。各地で悲鳴が上がり、人々が耳や頭を覆って逃げ始めた。
「な!?」
 あまりのことに絶句するグレンとティオの手を、それぞれの女が取った。
「行くわよ」
「行くぞ」
 赤毛の少女とオリーブの肌の女は有無を言わせずその手を引いた。運命のなんたるかを知るものは、迷わない。
「行くって、おい! 何考え…」
「できるわ、貴方なら。だって、できたでしょ?」
 ティオが抗議の声を上げる前に、ぴしゃりと遮るルウファ。その表情は危機感というよりむしろ高揚感に包まれて見えた。まるで、本当の祭りがこれからであるように。
「今なら大丈夫。運命を紡ぐのは、私達」
 横顔に浮かぶ挑戦的な笑み。それが不思議にティオの不安を氷解させる。
 苦笑してため息ひとつ。
「…わーったよ。つきあってやらぁ」


紗月 護 |MAILHomePage

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