「硝子の月」
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2003年06月04日(水) <発動> 瀬生曲

 中庭に設えられた建国祭用の式典会場での騒ぎは鎮まり、僅かに残っていたそこでの式典も滞りなく済んだ。
「陛下」
 これから大広間での宴となるのだが、その移動の時に声を掛けられる。
「アンジュか」
 振り返ると、優雅に一礼した少女が顔を上げた。深青色ディープブルーの澄んだ瞳と視線がぶつかる。
 古い時代に王家から別れた、建国王の血を引く名門貴族の娘。クリスティン家には王家との婚姻関係もあり、彼女自身は第八位王位継承権を有する。
 しかしそれ以上に、常人とは違ったものを見ることが出来ることで重要視されている。
「イリア様のご子息が」
「……そうか」
 宴に出ている場合では無さそうである。
 若き王はすっと腕を振って人払いをする。
 そこにいるのが二人だけになると、壁に当たる彼の影がむくりと動いた。
「俺の出番か」
 見る間に姿をはっきりとさせたのは、王にそっくりの青年だった。
「いつもすまんな」
「気にするな。上手くお前を演じてやるから行くがいい。『第一王国』国王の務めだ」
 壁から出た青年はにこりと笑う。
「うむ。ではアンジュ、私は例の場所で待つ」
 とんと壁の一角を押すと、ぽかりと穴が出現した。
「畏まりました」
 アンジュが再び頭を上げた時には、既に王の姿も壁の穴も無くなっていた。


紗月 護 |MAILHomePage

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