「硝子の月」
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「行くのはいいが、入れてもらえるのか?」 城壁沿いに歩きながら、グレンが至極もっともな意見を述べた。 普段でも警備は厳重であろうに、各国の要人も集まるこの時期に一般人が入場出来るものだろうか。 「その心配はないみたいよ。ほら」 「「何?」」 ティオとグレンがルウファの示す方を見やると、 「お待ちしておりましたわ」 アンジュがにっこりと微笑んでいた。 「待ってたって…」 「どうぞこちらへ。ご案内致します」 彼女は一行を城壁に不自然に開いた穴に招き入れる。全員が入ったところで穴は自然に閉じた。 「色々と仕掛けがありますのよ」 説明はにこやかなその一言で終了し、「さあどうぞ」と促して奥へと進んでいく。石造りの通路には等間隔で明かりもある。 (何が何だか) 今日は色々なことが起こり過ぎている、とティオは思う。 「ピィ」 「うん、大丈夫。何とかな」 頬に頭を擦り寄せるルリハヤブサの頭をそっと撫でて呟く。もう何があっても驚かないような気がする……多分。 「陛下がお待ちになっているのは『輝石の英雄』の部屋で…」 「「ちょっと待て」」 「はい?」 男二人に話を遮られて、アンジュは小首を傾げた。 「「誰が待ってるって?」」 以前同じタイミングで台詞を言ってしまった時には嫌がっていた少年も、今回それどころではないらしい。
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