「硝子の月」
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「国王陛下、アルバート四世ですわ」 少女はにっこりと微笑んでそう答えた。 「アルティアでは約百年間隔で建国王の御名を受け継ぐ王が立たれて、不思議と肖像画の建国王にそっくりと言われますのよ」 「ほう、面白いな」 カサネがふむふむと頷いている。ルウファは別に変わった様子はない。 ((……この女共は)) 声に出さない台詞まで揃ってしまったティオとグレンだが、本人達も知る由はない。 「国王陛下って……宴に出席しなくていいのか?」 「それはもちろん影武者が」 一行は再び通路を歩き始める。 「『輝石の英雄』の部屋は王族の中でも極限られた者しか知りません。この国が『第一王国』と呼ばれる由縁と同じで、例え知ったとしても忘れる人は忘れてしまいますの」 「貴女はその部屋のことも忘れないのね」 「ええ」 やがて木製の扉が一枚、通路の終わりを告げる。 「失礼致します」 ノックに続いてそう声を掛け、アンジュがそれを開けた。 奇妙な部屋だった。入った途端に違和感を感じる。 (……ああ、五角形なのか) それぞれの壁には一枚ずつ肖像画が掛けられていた。これが『第一王国』建国に携わったという『輝石の英雄(』なのだろう。 「ご苦労様、アンジュ」 そのうちの一枚、建国王とその妃が描かれた肖像画の下で青い瞳の青年が微笑する。 (似てる) ティオはほとんど無意識のうちにそう思う。 肖像画の王にも似ている。しかしそれ以上に昨日と今日と、奇妙な体験の中で観た青年によく似ている。とするとやはり、あれは本当に建国王だったのだろうか。 「はじめまして。私はアルティア現国王、アルバート四世。ようこそ、「硝子の月」を求める者達よ」
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