「硝子の月」
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「『輝石の英雄』は五人」 壁の肖像画を示しながらアルバート四世が語る。 「黒瑪瑙(は強力無双の重戦士、黄玉(は俊敏な弓使い」 三枚目の絵の前で、彼はルウファを見てにっこりと笑った。 「紅玉(の魔法使いはお嬢さんに似ている」 その女性はルウファよりも年上のようだったが、勝ち気な眼差しは肖像画からも充分読み取れるものだった。髪も赤い。 「気の強そうなとこがな」 「何か言った?」 「別に」 呟きを拾われたティオはふいと顔を背けた。 「早くからアルバート一世と共にあり、彼の右腕であり続けた雪花石膏(の賢者」 少年はその顔にも覚えがあった。奇妙な体験の中で見た建国祭前夜、建国王の隣にいた。 「そして私と同じ青金石(の瞳、建国王とその妃」 先程は青年のほうに気を取られていて気付かなかったが、アンジュもまたその二人の面差しを受け継いでいた。子孫だというのだから当然なのかもしれないが。 そして何故か、自分の母親の面影をもその肖像画に見出す。 「彼等の活躍でこの国は成り、以後「硝子の月」は歴史から姿を消した。そして今でもこの国と共にある」 若き国王は誇らかに一行を見渡す。 「今ここに『第一王国』国王の務めを告げよう。「硝子の月」を求めるそれにふさわしき者が現れ、時が満ちた時――私は「硝子の月」をこの国から解き放つ」
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