「硝子の月」
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2003年07月19日(土) <錯綜> 朔也、瀬生曲

「……解き、放つ?」
 ティオは驚いて目を見開いた。
 硝子の月とこの国の繋がり。あの夢で初代国王が願ったことを思い出す。
「だって硝子の月は、この国の――」
「護り。その通りだよ少年」
 王だという青年は、まるでそれらしくない仕草で肩をすくめて見せる。

「気まぐれと言われる「硝子の月」にしては真面目にその役割を果たしてくれている。外の騒ぎも多分もう鎮まっているよ。けれど私としては――私達としては、と言うべきかな。代々の王の考えなのだからね――「硝子の月」の望む時に、解き放ってやりたいのだよ」
 微苦笑を浮かべる彼の眼は優しかった。
「何だか妙な肩入れを感じるな。「硝子の月」に意志があるらしいのは何となくわかってきたが……生き物なのか? それは」
 その彼にグレンが問う。ここで王に対する敬意を表する必要はないと判断したのか、別に言葉に気を遣う様子はない。
「さぁ、どうかな」
 青い瞳はいたずらに細められる。
「国のことなら大丈夫。確かに「硝子の月」を失うのは痛いが、この国の護りはそれだけではない」
「何故それを我々に?」
 次に口を開いたのはカサネだった。積極的に話に参加しそうなルウファは意外なことに口を挟まない。「運命を知る」という彼女は、その理由も知っているのかもしれない。
「簡単なことだ。君達は「硝子の月」を求めている。『紫紺の翼持ちたる証』を連れて、ね」
「『紫紺の翼持ちたる証』……?」
 耳慣れない言葉にティオとグレンは首をひねる。思い浮かぶものといったら――
「「ピィ」」
 アニスとヌバタマが同時に鳴いた。


紗月 護 |MAILHomePage

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