「硝子の月」
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「?」 ぞくりと首の後ろの毛が逆立って、ルウファは一人で顔をしかめた。 「どうかなさいまして?」 「いえ、何か悪寒がして……大丈夫ですわ」 問うてきたアンジュにそう返す。 「それよりもどうぞお話を続けてください」 そちらのほうが重要だった。 「ええ」 次に語られたのはルリハヤブサのことだった。ルリハヤブサはかつて、硝子の月を守る番人だったという、グレンも知る伝説である。 一行の中でそれを知らなかったのは、当の鳥を連れたティオだけだった。 「知らなくて悪かったな」 「ピィ」 少年は機嫌悪く呟き、相棒は慰めるようにその頬に頭を擦り寄せた。 「だから君達は、「硝子の月」に到達出来る可能性が高いのだよ」 建国王の血を引く青年王は晴れやかな笑みを浮かべる。 「その時の為にこれを渡しておこう」 彼が取り出したのは小さな鈴だった。 「このとおり、今はこの鈴は鳴らない。「硝子の月」を見付けたら鳴らすことが出来る。その時に、私は君達の元へ行って「硝子の月」を解放する」 「一国の王がそんな軽々しく呼び出されていいのか?」 「軽々しくはないさ。「硝子の月」に関することなのだからね」 半ば呆れたようにいうグレンに、アルバート四世はいたずらっぽく笑った。どうも彼には堅苦しいところが足りないらしい。 「君達は今、アンジュの家に滞在しているのだったね」 「私は違うがな」 「ではどうぞお移りになってください」 アンジュはカサネに屈託無く微笑みかけた。 「城に部屋を用意させてもいいが、彼女のところのほうが気楽だろう」 クリスティン家とて大貴族なのだが、確かに城に比べればそういうことになる。否はない。 「「硝子の月」は『第一王国』と共にある。ゆっくりと探すがいい」 青年王はそう話を締め括った。
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