「硝子の月」
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2003年08月27日(水) <錯綜> 瀬生曲

「?」
 ぞくりと首の後ろの毛が逆立って、ルウファは一人で顔をしかめた。
「どうかなさいまして?」
「いえ、何か悪寒がして……大丈夫ですわ」
 問うてきたアンジュにそう返す。
「それよりもどうぞお話を続けてください」
 そちらのほうが重要だった。
「ええ」
 次に語られたのはルリハヤブサのことだった。ルリハヤブサはかつて、硝子の月を守る番人だったという、グレンも知る伝説である。
 一行の中でそれを知らなかったのは、当の鳥を連れたティオだけだった。
「知らなくて悪かったな」
「ピィ」
 少年は機嫌悪く呟き、相棒は慰めるようにその頬に頭を擦り寄せた。
「だから君達は、「硝子の月」に到達出来る可能性が高いのだよ」
 建国王の血を引く青年王は晴れやかな笑みを浮かべる。
「その時の為にこれを渡しておこう」
 彼が取り出したのは小さな鈴だった。
「このとおり、今はこの鈴は鳴らない。「硝子の月」を見付けたら鳴らすことが出来る。その時に、私は君達の元へ行って「硝子の月」を解放する」
「一国の王がそんな軽々しく呼び出されていいのか?」
「軽々しくはないさ。「硝子の月」に関することなのだからね」
 半ば呆れたようにいうグレンに、アルバート四世はいたずらっぽく笑った。どうも彼には堅苦しいところが足りないらしい。
「君達は今、アンジュの家に滞在しているのだったね」
「私は違うがな」
「ではどうぞお移りになってください」
 アンジュはカサネに屈託無く微笑みかけた。
「城に部屋を用意させてもいいが、彼女のところのほうが気楽だろう」
 クリスティン家とて大貴族なのだが、確かに城に比べればそういうことになる。否はない。
「「硝子の月」は『第一王国』と共にある。ゆっくりと探すがいい」
 青年王はそう話を締め括った。


紗月 護 |MAILHomePage

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