「硝子の月」
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『セレスティア』 自分の名を呼ぶのが誰なのか、彼女にはわかっていた。これがただの夢ではないことも。 ゆっくりと意識をそちらに向けると、自分と同じ雪花石膏の瞳の青年の姿が視認出来る。 『この私の血と瞳と『力』を受け継ぎながら、『第一王国』に弓を引くとは何事だ』 冷たい声、冷たい視線。 あの国の建国に尽力し、輝石の英雄(の一人に数えられる建国王の右腕であり続けた男。 「……消えてくださいご先祖様」 セレスティアはひたとその瞳を見据える。 「貴方がアルバート一世を選んだように、私はあの方を選んだのです」 賢者の血筋がいつアルティアを出たのかわからない。けれど彼女はここでもアルティアでもない国で生まれ、ウォールランと出会い、忠誠を誓った。そのことに迷いも後悔もない。 『そうか』 対する青年の白い瞳が細められる。口元に浮かぶのは満足そうな笑み。 『ならば許してやろう』 最初に見せた冷たさはもうどこにもない。青年の手が頬に添えられる。大きな手はまるで父のようだ――三百年分さかのぼれば、確かにこの青年に辿り着く。 『我が末裔に武運を。だが、容赦はしないぞ』 「望むところです」 知らず自分の唇にも笑みが浮かんでいることに気付き、同じ血を引いているのだと思って少しおかしくなった。
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