「硝子の月」
DiaryINDEX|past|will
「やあ! 待っていたよ僕の愛しい仔猫ちゃん!」 ばたん 先頭のグレンがドアを開けるなり駆け寄ってきた人物に、ルウファはすいと前に出て、容赦なくそれを閉めた。激突の音の下から「ぐえ」という声が微かに聞こえたような気がしたが、一行の中でそれを口にした人物はいない。 軋んだ音を立てて扉が開き、この数日行方不明になっていた青年がそっと顔を覗かせる。 「ふ、ふふ……再会が恥ずかしいのだね、この照・れ・屋・さん」 「人様の家を壊すわけにはいかないから今のは聞かなかったことにしてあげるけど、いい加減にしないと怒るわよ?」 「今まで怒っていなかったのか」というツッコミは皆胸の内に秘める。 「それよりどうしてあんたがここにいるのかを教えてもらおうかしら」 隠し部屋での王との話が終わり、一行はアンジェの屋敷へ戻ってきたのだった。王とアンジェはそのまま建国祭の宴に出席している。リディアも多分そちらにいるのだろう。夕方までには帰ると言っていた。 「どうして……って、君達はここに逗留しているんだろう?」 全員が無言で頷く。 「ルウファのいるところが僕のいるところさ!」 さも当然と言わんばかりにシオンは胸を張った。 ティオとグレンは少女の攻撃魔法が炸裂することを確信する。が、予想に反して彼女は深い溜息を一つついただけで青年の横を通り抜けた。 「少し休むわ。アンジェが帰ってきたら起こして」 何事が起きたのかと、ティオとグレンは思わず顔を見合わせた。 「大丈夫かいルウファ。僕が介抱し…」 「要らない」 まとわりつく青年に即座の却下と同時に裏拳を喰らわせたのを見て、すぐに心配しなくともいいと思ったのだが。
|