「硝子の月」
DiaryINDEXpastwill


2004年08月29日(日) <災いの種> 瀬生曲

 少女はくすくすと笑う。
「お前」
 だから、訪ねてみたくなったのだ。不意に戻ってきた彼女の機嫌が、とてもよいように見えたから。
「どこに行っていたんだ?」
 少年はすぐにそれを後悔する。
 少女の紅い瞳から、ほろほろと涙が零れ落ちたから。
「!」
 彼女が現れた時よりも驚いて、ティオは思わず窓枠から転げ落ちかける。アニスがばさばさと羽ばたいた。
「……おい!」
 何を言ったらいいのかわからなくて、でも何かは言わなければならない気がして、間に合わせの声を掛ける。
「え? あ、ああ、ごめん」
 自分が泣いていることにやっと気付いたのか、ルウファは涙を拭う。その声は泣いているとは思えない程に平静だった。
「ちょっと、人捜しをしていて。会えるかなーって思ってたんだけど、駄目だった」
「……お前でもそういうことあるのか」
「どういう意味?」
 問いながらルウファは部屋の奥に進んできて、窓枠の空いたスペースに頬杖をついた。紅い瞳は真っ直ぐに少年を映す。
「誰かを捜して歩いたり……会えると思った人に会えなかったり」
 彼女の瞳の中の自分を直視出来ずに、ティオはどうにか言葉を繋いだ。
 少女は年齢不相応の微苦笑を浮かべる。
「そりゃあね。私が知っている運命が全ての運命ってわけじゃないから」


紗月 護 |MAILHomePage

My追加