今日の埼玉は朝からいつ雨が降り出してきてもおかしくないような重苦しい雨雲に覆われていたが、案の定、俺の使っている営業車が突如としてエンジンがかからなくなるというアクシデントに見舞われた午前10時半頃には、霧のような雨からしっかりとした雨粒が空から落ちてくるようになっていた。
今日はどうも気分が乗らない一日だった。
雨のせいかも知れない。こんな天気の時には大気中に“陰イオン”が沢山放出されているので、精神が落ち込むことがあるんだ、と昔兄貴に聞いたことがあるが、その真偽は別としても、なるほどそう言うこともあるのかも知れないなあ、と時々思うことがある。 仕事での訪問先でも思ったように話が進まない。ま、こういうことは日常茶飯事なので、だからと言って落ち込んでいたらどうしようもないのだが、それとはまったく別の次元で、気分が晴れない。 最後の訪問先を出たのが午後8時ちょっと前。こんな一日のせいか、酷く疲れていた。
ふと、あたたかいコーヒーが飲みたくなった。それも缶コーヒーのような甘ったるい奴じゃなくて、だからと言って本格的な“珈琲”でもない。 ファミレスの、安っぽい、アメリカンコーヒー。
時々、仕事が終わった帰宅の道すがら、ふとファミレスや喫茶店に立ち寄ることがある。今思い返してみると、だいたい今日のような、気分の乗らなかった一日の最後に、寄り道することが多いかも知れない。 気分転換。 家まで車であと5分とかからない国道沿いに、ファミレスの『ココス』はある。駐車場に営業車を滑り込ませるころには雨脚はかなり強くなっていて、エンジンを切ってから俺はぼんやりフロントガラスを流れ落ちてゆく雨を眺めていた。 人気の少ない店内。こんな雨だものな。俺はお手軽な“ドリンクバー”を注文。まさに安っぽい――それでも最近は、ファミレスでも一杯ずつ抽出するドリップ式のマシンが主流みたいですな――アメリカンコーヒーがどんよりとした俺の体の中に注ぎ込まれた。
重くも軽くもないため息。
2杯目を運んできてからはカバンの中の『週刊ベースボール』を読みながら、1時間ほどねばった。雨脚はさらに強まっているようだったが、俺の心の中の雨雲は徐々に太平洋へ抜けていくような感じであった。
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