のづ随想録 〜風をあつめて〜
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【のづ写日記 ADVANCE】

2001年12月25日(火) クリスマス・グリーティングメール

 12月24日月曜日。世の中は天皇誕生日の振り替え休日、クリスマスイブが休日となる幸せこの上ない一日となるはずだろうが、ウチの会社は旗日はカンケーなくほとんど出社となるので、俺はいつもと同じ月曜日の朝として会社に向かった。休日だけあって道路がびっくりするくらいすいていて、予定の20分前には会社に到着してしまいそうだったので、口惜しいので途中のとある小学校のグラウンドの脇に車を止めて、ちょっとだけ居眠りをした。
 いつものように朝礼が終わり、いつものように仕事についた。昼が過ぎ、夕方近くになってくると、明らかに事務所の空気が変わってくるのが分かる。世間は休日、今日は早く家に帰ってクリスマスを楽しもう――、彼女との約束の時間に遅れないように、今日はさっさと仕事を切り上げよう――、そんなちょっと浮ついた雰囲気がかすかに事務所に漂っているようだった。

「なんやねん。オネーちゃんからメールが全然きよらへん」
 関西出身の先輩が会社支給の携帯電話を覗き込みながら言った。夕方4時をちょっと回った頃、仕事に人段落をつけ、俺の前の机に座った先輩社員とお喋りをしているときだった。
 俺は「え、ナニがですか?」と真顔で尋ねると、彼は携帯電話から目を離すことなく、「クリスマスメールや」と言った。
 彼のすぐ隣に座っていた俺と同い年の同僚が弾んだ声で言った。彼の手にはやはり携帯電話。
「え。俺には2通来てましたよ、オネーちゃんから」
「ホンマか。なんで俺には来ぇへんねん」
“オネーちゃん”というのは、まあ、配偶者以外で大変親しく交友関係のある女性のことを指していて(この二人は既婚者だ)、その女性からクリスマス・メールが届いたの届かないの――という話である。どんな内容かは見せてもらっていないが、粗方『メリークリスマス(ハートマーク) 今夜は会いたいわ』なんて甘っちょろい言葉がちりばめられているのだろう。そうか、世の中では携帯電話のメールはこんなグリーティングカードのような役割も果たしているのか、などと感心していると、先輩社員が俺に言った。
「オマエには来ぇへんのか、メールは」
「オネーちゃんからですか?」
「そうやぁ」
「俺には“オネーちゃん”はいないスからねえ。それに会社の携帯電話のアドレスを知っているやつなんて殆どいないですから――」
 ふと、思った。
 俺にはプライベートの携帯電話があるではないか。もしかしたら――。
 そんな考えはコンマ1秒もしないうちに自動消滅した。クリスマスメールが届くのが会社の携帯電話だろうがプライベートの携帯電話だろうが、“オネーちゃんという存在がなければ”そんなウレシいメールは届くはずがないのだ。
 机の横に置いてあるカバンからプライベートの携帯電話を取りだしてみる。

『メール 2件』

 そんな文字が画面に浮かんでいる。
「あ、メール来てますよ!」
 俺は奇妙な期待感が膨らむのを感じつつ、着信しているメールを開いてみた。
 笑った。

『谷繁、中日に入団決定』

 こんな俺に、メリークリスマス!


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