2002年01月17日(木) |
1995年1月17日 |
7年前の今日、阪神淡路大震災と呼ばれる大地震が関西地方を襲ったことは、もしかすると記憶の中からは薄れてしまっている人が少なくないかも知れない。 俺はあの日、まだ転勤で大阪市内に住んでいて、まさにあの地震を体感した。 朝6時ちょっと前に地震は起き、瞬く間にその被害は広がっていったが、その時はまだそれに気づいてはいない。あたりは停電してしまい、テレビやラジオからの情報は一切入ってこなかったが、それでも一時間ほどしてから電気は回復した。 当時から地元の仲間達と電子メール――俺達はやりとりするその内容の馬鹿馬鹿しさから“ばかメール”と読んでいた――をやりとりしていたので、実家の両親に電話した後、すぐに仲間達にメールを送った。『なんかエライ地震があったぞー』という程度の軽いメールだった。 そう。あの地震が6432人もの死者を出すことになる大災害だとは、その時はまったく認識していなかったのだ。 しかし、俺が軽い気持ちで仲間達に送ったメールは、実は思わぬところで功を奏していた。 勿論地元でも神戸や大阪を中心に関西地方を襲った大地震のニュースは放送されており、仲間達の一部は、 「アイツは大丈夫なのか?」 と、俺を心配してくれる話になったらしい。しかし、関西地方への電話はパンク状態でほとんどつながらない状態であり、仲間達が俺のところへ電話をかけても連絡がつかないのだ。 結局、俺が朝一番で軽い気分で送ったメールのおかげで、その日のうちに「アイツは無事だ」という連絡が仲間達に広まったという。
以下に紹介するのは、大地震当日の夜、続報として仲間達に送ったメールの全文である(個人名はイニシャル等に変更)。記録として、ここに残しておきたい。
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1 野● 幸久 CXP03600 95/01/17 19:53 題名:野●より、続報です!
し、シャレにならん……。 本日早朝に起きた地震は兵庫県神戸市を中心とする近畿地方に大きな傷跡を残した。テレビのニュースは続々増えてゆく死傷者の数を発表している。なんとかバスを乗り継いで午前11時過ぎに出社した俺は、テレビ画面に映し出される“惨劇”を口をあんぐり空けて観るしかなかった。
まずはご心配おかけしました! 野●は無事でございます。神戸の映像が殆どだと思うけれど、今朝の地震はかなり深刻なものとして関東地方でも伝えられたと思う。そんな主立ったニュースはテレビに任せるとして、GNN大阪・野●特派員が会社周辺および自宅・自室状況をお伝えしたいと思います。
「アレ、目が覚めちゃったよ」 と、天井をぼんやりと見つめていると、小刻みに、そしてすぐに激しい縦揺れがあった。お、地震だな……などと、いつもの感覚で思う余裕もなく、部屋はぎしぎしと音をたてている。ベッドの中から手を伸ばしてすぐ近くの本棚が倒れないよう横から押さえつけるので精一杯で、ベッドから上体を起こすことが出来なかった。恐らく身を起こすことくらいは出来たのだろうが、長い時間揺れ続け、電子レンジの上に置いてあった大皿が床に落ち、電灯が波打つように揺れ、本棚からは雑多な小物が次々と落ちてくるという、今迄の人生経験の中でもかなりレアな状況ではそれさえ出来なかった。 ようやく横揺れがおさまる。「おいおい、シャレにならんぞ!」と呟きながらベッドから身を起こし、テレビのスイッチをオン。しかし見事に停電になってしまったらしく反応なし。今や部屋の電灯もCDラジカセも、勿論マックもただの“物”と化していた。 いつぞやW.Kにもらった小型懐中電灯で部屋をぐるり照らしてみる。なるほど、生々しい地震の爪痕、といった風情だ。トイレでは“タンクの中の水が”床にこぼれていた。粉々になった大皿の破片、本棚から落ちた文庫本、忌まわしき思い出のイカ徳利(ところで、このイカ徳利の中に米粒を入れたのは誰だ! W.Kか! K.Mさん、あんたか! おかげで部屋に米粒が散乱して掃除するのが大変だったんだぞ!)などなど。特に床に穏やかに横たわっているイカ徳利を見たときはなぜかどっと疲れた。 乾電池の予備を持っていなかったので、CDラジカセのラジオを聴くことすら出来なかった。地震の情報が何ひとつ入ってこないというのもかなり心細いので、マンションの1階部分であるファミ●ーマートの状況視察もかねて乾電池を買いに部屋を出ることにした。結局それは不可能だった。分かると思うけど、オートロックドアになっているマンション玄関のドアは停電によってロックが解除できなくなっていたのだ。 「閉じ込められてしまった……」 ドアに手をかけた状態で白骨死体になって発見されることを想像しながら、止むを得ず部屋に戻った。 (尚、停電になってオートロックが解除されない状況になっても、何のことはない、ドアの下方についているツマミをちょいとひねればドアは開けられることが夕方になって確認された。冷静に考えれば、停電になったくらいで閉じ込められてしまうような構造のマンションなんてあるわけがない。災害は人の冷静な判断力さえ鈍らせてしまう恐ろしい力があるのだ――単なるばか――) 地震発生から約1時間が過ぎた6時50分、ようやく東の空も明るくなってきたころに電気は回復した。早速NHKで状況の確認である。こんな時でも、例えばテレビ東京なんかは『奥様ショッピング』なんかを放送してるんだろうな、などと考えている。窓の下では周囲の住民達の声がした。窓を開けて駅前の様子を見ると、早速不通になってしまった阪急電車に途方に暮れているコート姿が何人もあった。テレビでは『阪急電車は7時過ぎにも運転開始する見込み』と言っていたので、あまり気にも留めなかった。 そう、このあたりまであまり事態を深刻視していなかったのである。 しばらくのテレビのニュースを見続け、シャワーを浴び、もさもさと朝食をとり終わったのが8時20分頃。同期の奴と電話連絡、加盟店への対応で人手不足が予測される会社になんとしても行かねばならぬ、という点で合意し電話を切った。
しかし、先ほどの報道とは違い、阪急電車は全く運転する気配はない。望みの綱であるタクシーすら、1台も駅前に姿を見せないのだ。テレビでも阪急を含む私鉄各線、JRとも不通のままである、ということを繰り返し報道していた。そして神戸市内でのちいさな火事の映像などが流されるようになって、事態は深刻になっているということに気付きだした。 部屋を出て、タクシー乗り場でタクシーを待つことにした。勿論電車は不通のままで改札口に貼られた『運転再開の見込みは今のところありません』というはり紙の前で、20人位の人達が立ちすくんでいた。 15分ほど待ってタクシーが来るが、行き先を告げると見事に乗車拒否。「道は込んでるし、停電で信号機がイカレてもうてあかんわ。西中(西中島南方の略)へ行くんやったら――」と運転手にバスの乗り継ぎを教わった。交通手段は完全マヒと思われていたが、どうやらバスだけは運行しているようだった。慌ててバス停へ。そこで相当な時間バスを待ってようやく会社へ向かうことが出来た。 予想はされたが、普段電車を利用している人達が皆バスに流れてきたものだから、バスの中は超満員である。たまたま始発のバス停から乗ったので座れたものの、ひどい交通渋滞の中、超満員のバスで揺られる1時間(! ――勿論通常はそんなに時間はかからないはずだ)というものは実にハードであった。 降りたバス停から会社までの道すがら、傷跡はあちこちに見られた。 急遽閉店を決めた店舗や外壁が崩れ落ちたりヒビが入っているビル、特にひどかったのは、水道管が割れてしまったのか、外壁から水が道路に流れ落ちているビルもあった。会社の事務所があるビルも外壁のタイルが落ち、エンタランスの段の部分に大きくヒビが入り2センチほどずれていた。エレベーター前の大きな観葉植物も折れ、ビル内の案内表示も2本の足の根本から折れてしまったのだろう、壁に立て掛けてある。事務所のある3階へエレベーターで。見れば壁には、間違いなく地震によるものとわかるヒビが2、3は見つけられた。 事務所には12、3人位の人達しか出勤していなかった(そのうちの4人がウチの部署だったんだから偉いよなあ)。 「よお、野●。なにしに来た?」 なんていう冗句に苦笑いを浮かべながら席につく。ちょうど真横の方向にあるテレビではNHKのニュースが映し出されていて、出社した社員が食い入るように地震の被害の様子を見つめていた。 息を飲んだ。 脱線した阪神電車、そのすぐそばで炎上する家屋。倒壊するマンション、ビル。生き埋めになった家族の安否に泣き叫ぶ老婆。屋根だけを残して潰れてしまった三宮の生田神社。ヒビ割れた道路から吹き出る泥水。消火活動すらままならぬまま燃え上がる神戸市内の住宅密集地。立ち上る黒煙。おもちゃのように高架ごと横倒しになった阪神高速道路。朝、部屋を出るときに発表された死者の数は5人だったのが、この時すでに100人を越えていたのだ。 事務所の電話がひっきりなしに鳴り続けるのを聞きながら、この地震は“自分が住んでいる街で起きたのだ”という認識が、心の中に拡がる。
――という、思わずしてリアルな描写をしてしまいました。兎も角も野●は怪我ひとつしておりませんのでご心配なく。 最後にとっておきのエピソードをひとつ。こんな連絡が事務所に入ったのです。 地震の被害の中心となった神戸市のとあるファミ●ーマート店でのこと。その店が暴徒に襲われた。サッシを割られ、店内の商品を強奪された、というのだ。ロスアンゼルスや大阪西成区の暴動じゃあるまいし……。俺はこの話を、この事実を信じることが出来なかった。 人間のやることとは思えない。ここは本当に日本なのか!?
ところで、3G軍団本部では今回の地震に際し、『野●氏救済対策本部』の設置は検討されているのだろうか。
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