常日頃から滅多なことでは飛行機なんぞに乗ることは無い、と思っていた俺だが、気づいてみると今年は出張が多いことも手伝ってずいぶんと“飛行機づいて”いる。 5月の下旬、仕事の出張取材で福岡へ飛んだのがそもそもの始まりだった。その出張取材ではさらに福岡から仙台までの移動も飛行機であった。乗りなれないもんだから、そのときの飛行機がプロペラ機だったことにかなり頼りない気分にさせられたものだった。 8月には生まれて初めて愛媛県に訪れたのも出張だったが、往復の移動は当然に飛行機。そして今回の強行出張“火の七日間”では羽田→高松、松山→福岡、福岡→羽田とそれはもう景気良くびゅんびゅんと日本の空を駆け巡った。
残業続きで帰宅が深夜になると、どうも興味を向けたくなるテレビ番組というのも少ないので、そういう夜はいつの間にか必ず『テレビショッピング』の番組をBGM代わりに点けるようになった。ぼんやりと思考を働かせることなく見続けられるのがいい。時には本気で購買意欲をそそられる商品に出会うこともあって、結構そんな『テレビショッピング』の時間が俺は好きだった。 そんな背景があったかどうかは別として、飛行機に乗ると座席のポケットに必ず忍ばせてある通信販売の雑誌があるが、どうもこれをしみじみと読んでいるのも楽しいということに気づいた。 特に雑誌の中で紹介されている旅行カバンなどは、『キャビンアテンダントが考えました』とかなんとかタイトルが付いている魅力的な造りで、ちょっと値の張るものも多いがどれもこれも欲しくなる。 「飛行機の移動時間なんて、どうやって時間をつぶせばいいのだ」 ――と、俺はこれまでそう考えていたが、国内の移動程度なら十分暇つぶしになる雑誌が目の前にあるのですね。
機内の前方には大きなスクリーンがあって、たとえば離陸前の諸注意を映し出したり、映画やスポーツなどを写したりしている。その視界の中に乗客がうろちょろするのがわずらわしいので、俺はスクリーンに写されている映画などをじっくり観ることはまず、ない。 それよりも、着陸時になるとそのスクリーンには滑走路に向かう機首からの映像が迫力満点で映し出されて、俺はこちらのほうに強い興味をもって見入っていることが多い。 無事着陸すると、スクリーンの中では滑走路の誘導等やマークが流れるように後方に飛び去り、そしてゆっくり、ゆっくりと機体は空港の建物に近づいていく。 その時。 スクリーンには、両手に旗などをもって大きく振り、飛行機を誘導する整備員のような人が映し出されるでしょう。 もしこれが整備員ではなく、ガチャピンだったら。 一人ではなく、二人がいて、ベタな舞台衣装を着て漫才をやっていたら(当然、音声はない)。 整備員が後ろ向きで胡坐をかき、弁当を食べていたら。 どっしりと、そこでキャッチャーが構えていたら……。
そんな想像をしていると、確実に俺の左の頬は笑いを噛み殺している。そしてそれは、想像ではなく“妄想”とも言う。
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