水曜日の晩、21時過ぎまで残業をしていたのだが、先輩社員(といっても年齢は一回り以上も離れている大先輩だ)から「メシでも喰いに行くか」と声をかけられ、まだやっつけねばならない仕事は残っていたのだがそのまま断らずに俺は彼について行った。 「旨いもん、喰いに行こう」と、事務所から10分程度歩いたところにある寿司屋へ。俺は瓶ビール、先輩社員はぬる燗でひとまず乾杯をし、仕事のアレコレなどを語りながら過ごしていた。 つまみの刺身も握りも文句なしに美味しくて、冷えたビールとともに体の中に沁み込んできた。しかし、一方でその具合がちょっとおかしいなと感じていた。 一時間半ほどその店で飲み食いし、「普段、頑張ってもらってるからなあ」とすっかりゴチになってしまう。へへえええっと頭を下げる俺を残して先輩はそのまま家まで歩いて帰っていったが、俺は事務所に残した仕事を終わらせるため、また夜風の中を肩をすくめながら歩きだした。 どうも、こう、あれですよ。体のなかが“渋い”。 事務所に戻り2時間ほど残業して部屋に戻ったのが、午前1時近かった。この頃にはもう確実にオノレの体調が尋常ではないことを実感していた。自分で額に手のひらを当ててみると、熱も確実にありそうだ。昨年末からだましだまし来て、正月も一日軽く寝込んでしまうような状態だったが、いよいよ体調を崩しているようだ。 果たして、木曜日は出勤を断念、「すんませんけど休ませてください……」とケータイで上司に電話し、体中の間接の痛みに堪えながら一日中ベッドでうなり続けていた。薬を買いに行く気力もなく、かろうじて買い置きしていたカップ麺がその日の貴重な食料だった。
熱も大して下がらず、関節の痛みがちょっと引いたくらいで、一日会社を休んでも体調は全く回復する兆しを見せなかったが、これ以上休むとかなり深刻に迷惑をかけることになりそうだったので、今日は重たい体を引きずって不承不承出社する。 『もしもし、松山の“のづ”ですがゲホゲホ』 「ああ、おつかれさまですぅ」──派遣社員の女性が電話に出た。 『ゲホどうもどうも。ちょっと頼みがあるんだけどゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホ』 「大丈夫ですか。昨日、休んだんですよね?」 『うん。はっきり言って死にそうです』 「韓国、行くんですか?」 『今更、風邪ひいたので行けません、なんてゲホ言えないでしょうゲホゲホ』 「のづさん、アレなんじゃないですかあ? あの、今、流行ってる病気」 『狂牛病』 「──ばか」 サラリーマンの性なのか、体調は悪いくせに忙しくアレコレ仕事をやっているとテンションもあがってきて、なんだかんだで一日過ごせてしまうから、これはこれでどうもツラい。 明日一番の飛行機で所沢へ帰ろうと思っていたのだが、一日休んだ分の仕事をこなさなければならない様子だ。明日の全日空の最終便で帰る予定である。 そして、月曜日からは韓国出張。韓国の人々はかなり主張がハゲシいと聞くので、打ち合わせのなかであまり訳の分からないことを言い出したら「だまれ、元植民地」などと口を滑らせないように気をつけたい。
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