のづ随想録 〜風をあつめて〜
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【のづ写日記 ADVANCE】

2004年01月24日(土) どうしても、どうしても

 いや、どうしても焼肉が喰いたかったのだ。

 出張で訪れた初めての韓国ではあまり満足のいく食事は出来なかった、というのがコトの始まりだったかもしれない。
 初日は味気ない機内食の昼食で始まり、夜は居酒屋のような店で飲んだんだか食べたんだか……というような中途半端な食事。夜食に韓国のファミリーマートで買ったカップめんとおにぎりを夜食にした。
 翌日の昼にはカルビスープのようなものを食べて、初めて分かりやすい韓国料理を口にした気分だった。その日の夜がつまるところ“最後の夜”でもあったわけで、俺はがっつりと本場の焼肉をたらふく食う計画だったのにもかかわらず、同行者の先輩社員が「フグ行こうか、あっさりと、フグ。韓国(こっち)は安いからね」
 いやいやいやいやいや、こっちはあっさりじゃなくて“がっつり”喰いたいんですよ。
 最終日の昼には、大流行中の鶏インフルエンザの猛威をものともせずに『参鶏湯(サムゲタン)』をいただく。なんてタイムリーなチョイスでしょう。新鮮な若鶏の中に、高麗人参やモチ米、なつめ、にんにくなどを詰め、一羽丸ごとを長時間じっくり煮こんだ、あれ。ここでも“あっさり”だったのでちょっと残念だったけど、本場韓国の、それも観光客相手ではなくその辺の一般人を相手にしているような食堂だったので、これはこれでお手軽でかつ本格的に旨い。韓国の3日間でいちばんカンドーした食い物はこの『参鶏湯』かな。

 というわけで、焼肉の本場にいつつもその気配すら感じることなくおめおめと帰国してしまった俺の口腔および胃袋連合がそのまま黙っているわけもなく、その日、仕事がてらで入ったローソンでガイドブックを立ち読み、松山市内の焼肉屋をチェックした。
 時刻にして午前10時半。普通、こんな時間にまなじり吊り上げて焼肉のことなんて考える36歳はいない。
「ここだ。ここしかない――」
 約30分ほどの熟考の末(考えすぎ)、松山市内にある一軒の焼肉屋に焦点を絞った。ココからさほど遠くなく、この時間から営業していて、とにかく『焼肉が食いたい。腹いっぱい食いたい』という俺の胃袋を納得させる店でなければならなかった。
『焼肉食べ放題・スタミナ亭』
 普通、日曜の昼前から焼肉食べ放題にたった一人で足を運ぶ36歳はいない。
 正直なところ、ランチタイムに入ろうかという食べ放題の店であれば家族連れやらカップルやらで店はたいそう賑わっていて、俺はその隅のほうのテーブルで独りちまちまと焦がした焼肉を口に運び、人目を忍びながらカルビやらタン塩やらを取りに行き、そしてまた誰も待っていない自分のテーブルに戻り、背中を丸めてこそこそと焼肉を……、という自分を想像するだけで枕を濡らしそうにもなるのだが、そんなことはもう気にしてはいられない。
 とにかく、俺がたらふく焼肉を食わないとこの地球を救えないのだ。そんなわけの分からないことをぶつぶつと口走りながら、俺は『スタミナ亭』を訪れた。

 店内に入ってみれば、昼時だというのにすっかり閑散としていて、賑やかな店内の片隅で肩を落として焼肉を口に運ぶ疲れたサラリーマン、というような状況はなんとか避けられるようだった。
 テーブルに案内されて、90分一本勝負。もうここからは記憶にないくらいガシガシ焼肉をやっつけていきましたよ、ええ、食ってやりましたとも。カルビ、牛ロース、豚ロース、タン塩、レバー、塩チキン……。当然、白米は欠かせません。サラダバーも勿論あったけれど、ブロッコリーをちょっとつまんだ程度。そもそも“焼肉が食いたい”俺の前では野菜など雑草も同然。
 俺の目の前のテーブルでは、ほぼ同年代と思しき主婦が二人、テーブルの上に取り皿をうず高く積み上げて、食べては喋り喋っては食べ、という具合に食べ放題と格闘していた。なにかこう、イロイロなことを考えさせる風景ではあった。
 お会計で2000円ちょっと。決して極ウマの高級焼肉というわけではないが、俺の胃袋は満足したようだった(満足しすぎて、家に帰ったらちょっとハラの具合が)。


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