2004年01月26日(月) |
ヒロシマの名のもとに |
土曜日だというのに、こんな時間まで仕事をやっている俺は一体……、と底冷えのする暖房の効かない事務所の中、自分の気持ちが確実に内角低め方面にねじけていくのを感じていた。 実は池袋本部でちょっとしたコトがあって、どうやら俺の“1月末まで”という約束の松山出張は期限の英気を余儀なくされそうな気配である。恐らくあと1ヶ月近くはこの地でうどんを食べ続けなければならない生活が続くのである。 会社で起きた“ちょっとしたコト”のおかげで俺の仕事はまた一気に忙しくなってきた。金曜日の朝に某役員さまから直接俺のケータイに連絡があって、かくかくしかじかの書類を作るべし、添削は私がするので──とのこと。ったく、そんなことをやっている時間はないというのに。 本来の仕事をやっつけつつ、悪戦苦闘の末その書類の最終版を某役員にファクスで送ったのが土曜、夜の9時半。電話の向こうでうにゃうにゃと俺が作った書類を読みながら、某役員は言った。 『──うん、まあ、これでいいんじゃないの。コレで、本部にメールで送っておいて』 よっしゃ、フィニッシュ。これでOKが出なかったら日曜日に持ち越しの仕事になるところだった。俺はすぐさまケータイを取り出し、友人にメールを送った。 『行くぞ、広島!』
奥様の実家が広島である、という友人からメールが届いたのが土曜日の朝だった。用事で広島に来ているとのコト。実に退屈な松山の生活にちょっと辟易していた俺は、無理やり休みを取って松山から高速船に乗って広島まで渡り、独りぶらりと広島を観光でもしようか、と考えていたときだったからタイミングはばっちりだ。 『仕事の都合がつけば、日曜日に広島で落ち合おう』 ということになり、俺は土曜日の仕事をムキになってやっつけていたわけだ。 で、行ってきました、広島。修学旅行以来という宮島の厳島神社と広島焼の旅。
松山に来て2ヶ月近くにもなろうというのに始めて来た、松山市内の北西にある観光港から広島へ、ジェットフェリーで1時間ちょっと。まあ、3,000円程度で広島まで渡れるのだろうと高をくくっていたら、5,000円も請求されてちょっとびっくり。 “四国”の松山と“本州”の広島は海をちょいと渡ってしまえば近くなのだ、とぼんやり想像していたが、実は“ちょいと”では渡れないくらいの距離なのである。まあ、当たり前といえば当たり前。 広島港で出迎えに来てくれていた友人夫婦と合流。奥様は所用があるとかで別行動となり、俺は友人とふたりっきり半日広島観光と相成った。 冷静にこのシチュエーションが可笑しい。高校時代の同級生という36歳の脱力サラリーマンがふたり、小雪の舞い散る宮島で何をするというのか。手にするデジカメで、ふたりはどんな写真を撮るというのか。広島港から宮島へ渡るフェリーの中でそんな話をしていると、かなり方向性の違うところでこの半日観光の期待は高まっていった。 実はテーマは決まっていた。友人からの情報と俺のたっての願いで、『宮島の屋台でアツアツ焼きガキをほお張り、ついでに広島焼もがっつり食べてしまうツアー』。大抵、俺の場合観光の8割以上の目的は“なんか旨いもん食いたい”なのである。

思ったほど観光客の少ない宮島・厳島神社は、かなり冷え込みのきついどんよりとした曇り空の下でひっそりと佇んでいた。もう20年近くも昔の話になる高校2年の修学旅行に訪れたここ厳島神社だったが、穏やかな瀬戸内の海に浮かぶそれは修学旅行のときに来たぞ、という記憶ではなく、単なる知識として記憶されている風景のような気がした。それくらい、修学旅行で訪れたときの記憶が欠落している。宮島で俺が友人と話せる修学旅行の記憶といったら、姫路で宿泊した迷路のような構造のホテルの話や、窓の外から隣の部屋へ移動しようとしたところを先生に見つかったバカの話くらいだった。 「ベタな写真を撮ろう」 と友人が言った。宮島のシンボルとも言うべき鳥居を背にパチリ。そして、同じように鳥居を背にして、ふたりの顔を寄せ合い、いわゆる“自分撮り”。ばかです。ええ、ばかですとも。そんなことをやってる自分たちを面白がっているだけなんです。 一方通行の厳島神社境内で、まずは目当ての焼きガキをいただく。一皿400円で、そのアツアツ具合およびまろやかなお味といったらもう泣かせる。やっぱり冬は牡蠣ですね。

引き続き、土産物屋が続く中でもみじ饅頭をひとつ買い食い。ほんのり出来立てだったので、旨い。チョコレートやカスタードのもみじ饅頭ってのはいまやスタンダードなのだろうけれど、びっくりしたのは『アップル』。もはやなんでもアリか。ここまでくると『キムチ』とか『ゴーヤ』あたりが出現するのも時間の問題だ。 悩んだ末に、昼食は『牡蠣うどん』を、友人は焼きガキをいただく。俺の牡蠣うどんは牡蠣のエキスが出汁に上品に出ていて、これまた旨い。本当は牡蠣フライとかしっかり喰いたかったのだが、この後の広島焼に備えて軽めに抑えておいた(――と話したら、「うどんをしっかり喰っておいて、それでも“抑えた”ことになんのか」とツッコまれる)。 “自分撮り”をしてしまうような莫迦な俺たちの、昼食時の会話をちょっとだけ再現。
店員「(俺の注文した牡蠣うどんを俺の前に出しながら)お待たせしました」 俺「ううん、いい匂いだ」 店員「そのままお召し上がりください(と言って立ち去る)」 俺「――今、“そのままお召し上がりください”って言ったよな。どういう意味だろう」 友人「?」 俺「七味とか、入れるなってコトかな」 友人「──箸を使わずに食えってことじゃないか」 俺「……」
こんな友人と、次は広島へ。広島駅ビルの『麗ちゃん』という店で広島焼をいただいたのだが、あまりにあせって食ってしまったので写真を撮るのを忘れてしまいました。
2月も松山での生活が続くと決まった今、なかなか時間を作れないとはいえ、こうしてあちこちで出掛けてみるのも悪くは、ない。
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