19時37分岡山発のぞみ78号の車内からお送りしております。いやあ、単純に肉体的に疲れた出張でございました。
普段呑みに行く機会の少ない俺が、この5泊6日の出張では、量の多少は別としてほぼ毎日アルコールを摂取していたことに今気付いた。“量の多少は別として”なんて言い訳染みたコトを言っているが、さらによく考えてみると量もそこそこ飲んでるんじゃないのか。 出張最後の宿泊の夜となった29日の夜、俺は現地担当者の同僚に連れられて、彼の馴染みの店を訪れた。 念のために言っておくと、その店はいわゆるところの風俗方面のお店では決して無く、ちょっとお酒を飲むのにカウンターの向こう側に女性がいて愛想笑いを浮かべてくれる、という程度の店だ。この“カウンターの向こう側”というのがポイントで、この形態だと『スナック』と呼ぶのではなかったろうか。記憶が曖昧なので暇な人は調べてみたらいいじゃない。 我々が訪れたとき、店には他に客がおらず、すっかり貸切状態だった。お店側の女性は4名に対してこちらは3名。カウンターを挟んで、客である我々とお店側の女性が妙な見合いのような格好で座る形になった。『フィーリングカップル5vs5みたいやね』 と、その中では最古参らしい田中真理子似の女性が笑った。今時、なかなか“フィーリングカップル”っていうチョイスもないですよ、と僕が軽くツッコむと、田中は頓狂な声で笑った。 この田中が、なかなか面白い。 年のころは三十路をちょっと過ぎたくらいだろうか。兎に角よく喋る女性で、俺とほぼ同年代であるからだろうが、物事のたとえに引っ張り出してくるコトバのチョイスが中途半端に古くて、好い。先程の“フィーリングカップル”しかり。 いちばん笑ったのが、この田中、吉本新喜劇にやたらと詳しい。関西圏の出身であれば日常の中に吉本新喜劇があって当たり前の生活を過ごしているはずで、この田中も例外ではなかった。たまたま他の3人の女性があまり吉本新規劇に詳しくなく、田中と僕で吉本新喜劇談話に花満開。 「のづさん、なんでそんなに吉本新喜劇に詳しいん?」 「なんででしょうね。昔から好きだったっすよ」 「関東の人で、そんなに詳しい人おらんわあ」 「自分だって、木村進だの中山美保だのアホンダラ教の教祖様だの、フツー女の子はそんな名前知らんよ」 「そう? だいたいのづさんの喋りっていうか、“ノリ”は、もう関西人やもん!」 過去にも何度かあった。関西圏のこうした店で飲んでいると、大抵俺は店の女の子に“関西人扱い”されるのだ。いや、こんなこともあったぞ。浦和で飲んだときには、店の女の子に、 「関西の出身なん?」
今日の仕事は岡山県の某ホテルで加盟店オーナーの集会のようなものがあって、その本部スタッフとして参加する、というものだった。 一通りスケジュールがこなされ、夕方から反省会という名の社員懇親会の場となった。岡山地区の社員には、俺が大阪で4年過ごした転勤生活で世話になった先輩社員が多く、俺はビール瓶片手に方々の先輩社員への挨拶に駆け回っていた。 「それでは、各部門対抗の演芸大会にうつりまーす」 司会が高らかに宣言。会社でまとまって飲むと、だいたいこんな風に部門対抗演芸大会が行われる。若手社員が演台に上らされ、とにかく全体の笑いを取るまでは帰ってくるな的な過酷なシーンである。俺も大阪時代、これでずいぶんと鍛えられた。 Fさんは大阪時代に俺と苦楽を共にした大先輩だ。いま、彼は岡山に転勤となっている。そして、Fさんの部門の若手社員(といっても、年齢は俺より2、3つ若いだけだが)がマイクの前に立った。 「私はあまり芸がないので、歌を歌います」 「いいぞー。うたえー(観客の声)」 「では、歌います。オリックスブルーウェイブの優勝を祈願いたしまして、『阪急ブレーブス球団歌』」 彼はマイクの前で直立し、朗々と『阪急ブレーブス球団歌』を歌い始めた。 これが、俺にはツボにはまった。 なんで、『阪急ブレーブス球団歌』なの? なんでそんな歌知ってんの? オリックスのファンなんでしょ? ツッコミどころが山ほどある。俺は腹を抱えて笑ってしまった。 「いやあ、Fさんとこの彼、最高に面白かったですねえ」 歓談中に、僕はFさんにビールのお酌をしながら言った。 「そうかあ?」 「はい、僕はもう、げらげら笑ってました。最高でした」 「そやろ。あの可笑しさはなかなか理解されへんねんけどな。あいつ、ごっつおもろいねん」 「めちゃめちゃツッコみたかったです」 「アレで笑えるんやから、やっぱ、おまえは関西人の血ィが流れてんねんなあ」
いや、だから、俺は関西人じゃないって。
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