雑感
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Vikram Sethの "An equal music"はペーパーバックの隙間から 音色がこぼれてくる小説だった。
480ページ読むのにずいぶん時間がかかったが、ゆっくり場面を思い 浮かべながら楽しめたので満足している。舞台がロンドン、ウィーン、 ベニスと土地カンのあるところで、ウィーンにおいては自宅の1本裏道が リハーサル会場に登場したりと読み進めるうちに嬉しくなった。
ただ、物語自体は、かつて恋人同士だったバイオリニストとピアニストが 再会したものの、また別々の人生、演奏家としての道を歩むことになり ハッピーエンドではない。男性のバイオリニストのわがまま、強引さが 墓穴をほったのかもしれない。夫も子どももいる耳の不自由なピアニスト への甘えが度を越しているなと思った。
ベニスのヴィヴァルディゆかりの教会で二人がこっそりとヴィヴァルディの ソナタを演奏した場面は美しく、活字の隙間から、メロディが流れてくる ような感じがした。 バイオリニストがもう一度演奏しようと言ったとき、彼女はノーと応えた。
If it was perfect, since it was perfect, it is certainly not to be done again. (いまのが完璧な演奏だったとしたら、完璧だったからこそ、二度と演奏 してはいけないのよ。)
7、8年前までは、歌手の生の声を聞こうと、よくオペラ座に通ったものだ。 何百回と演奏される演目でも、楽団も、指揮者も歌手も、会場もどれ ひとつとして同じものはないし、歌手の声の状態も刻一刻と変化する。
昔、「ランメルモ−アのルチア」をエディタ・グルベローバの声で聞いた ことがあった。フルートと彼女の声が小鳥のおしゃべりのように唱和して 魂にずんと響いて涙が出そうになった。あの瞬間、あの場所で彼女の高く、 軽やかな声を聴くことができて、本当に嬉しかった。
生の演奏というものは、聴いている者の状態によっては、同じ音色が 奏でられても、天から、はらりと至福の粉雪を浴びているような気分 になる。 疲れた身体には、美しい音色、美しい文章や美しい絵を見るのが 一番いいのかもしれない。
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