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2003年02月27日(木) |
母は私の「父」となった |
私は酒を飲んでいるときの母が嫌いだった。
話をしても翌日には忘れてしまうし、 平気で人を傷つけることをする。 酒が入っていないときの母は 私と一緒で父の「被害者」だったけれど、 酒が入るととたんに「加害者」にかわる。
夜になると母はいつも酒を飲んでいたので、 私は夜になると家ではあまりしゃべらなくなった。 家にいるときはいつも 母の一方的な愚痴をきかされるだけの 憂鬱な夜を過していた。
自分は悪くないと毎晩のように嘆く母を見ているうちに、 私は母のことがだんだん嫌いになっていった。 母は私のことがわからないと嘆いていたけれど、 話す機会を奪っていたのが自分だということに気づこうともしない。
一度、誕生日プレゼントは何がいいと聞かれて その日にはお酒を飲まないでほしいと言ってみたものの、 そのときにもお酒が入っていたのか かなえてはもらえなかった。
しかし、父の絶対的な立場が揺らぎ始めたここしばらくの間、 母は父を攻撃するようになった。 最初のうちは父はなんとか自分の立場を守ろうとして 必死に母を傷つけようとしていたけれど、 母は今まで傷つけられつづけてきた恨みからか、 父のちょっとした言葉でも何倍にして返すようになった。 先日母が父のことをあきれた表情で バカ呼ばわりしているのを見て戦慄を感じた。
確かに父は今まで母にひどいことをしてきたが、 不景気は彼のせいではない。 金と体力が前ほどなくなったからといって 何十年もつきあってきた相手に対して ここまで態度をかえられるものなのか。 彼に対していい感情はないけれど、せめてもう少しやさしくしても いいんじゃないかと同情さえ覚えた。 (とはいえ、彼が改悛の情を示すはずもないので すぐに同情するのはやめてしまうのだけど。)
その頃からだろうか。母が昼間も、 酒を飲んでいるときの、 私の嫌いな彼女のままでいることが多いのに気が付いたのは。
歪んだプライドに、人間不信。 少しでも弱い人を見ると非難してやりこめずには いられない態度。 人の話にとにかく耳を貸さず、自分と違う意見なんて 最初からないものと思っているあの態度。 まるで、母の姿を借りた父がそこに存在しているようだった。
ああ、そうか。
母は、父が威厳をなくしたとき、 自分をずっと押さえつけていた父に勝って、 ついにあの「父」になったんだ。
それに気づき、私はただ薄笑いを浮かべるしかなかった。
父とはなんとか顔を合わさずに過ごしているものの、 母とはどうしても毎日顔を合わせないといけないから 何かしら話さないといけない。 そのたびに、自分の心が消耗していくのに気づく。 以前は父と対立していたけど、今では二人の「父」と ギクシャクするようになった。 ほとんど会話をしない分、父と一緒にいるほうが ましかもしれない。
今の私は、ここから逃げるには あまりにも自分の時間がなさすぎる。 身一つで逃げればいいのかもしれないけれど、 自分のものを一つでも置いていったら、 自分で買ったシャープペンシルや消しゴムさえもが ひどい目にあわされそうに思えてなかなかできない。 何一つ、置いていきたくないのだ。
父が死に、母が死んで、 自分を押さえつけるものがなくなったとき、 私も「父」になってしまうのだろうか? 父の性格は私の大嫌いな祖父そのままの性格だ。 遺伝子を色濃く受け継いだ自分がああならないという保証はない。 そのことを考えるたび、 汚染された冷たい何かで濡れた布で全身を覆われたような、 とてもいやな気分になった。
自分の弱さと歪んだ心を守るために、 無神経に人を傷つける存在になって 高笑いをするくらいなら、死んだ方がましだ。 そういう人間に傷つけられた痛みは 人一倍わかっているつもりだから、 自分がそんなものになってしまったら 今度こそ本当に自分が許せない。
まだ自分では自覚はないけれど、 もし既に私がそうなってしまっているのなら、 誰でもいいから私を殺してほしい。 「父」になってまで、自分を守りたいとは思わない。
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