万談館
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2002年09月03日(火) G3外伝  第1話 エウーゴ前夜(3)

 ラハト艦長から休暇をもぎとったシオンは、街の入り口でワンと分かれ、貴金属店の扉を開いた。
 店員が高い品物を次々と紹介していく中で、シオンは自分で物を探している。自分で選びたかったのだ。
 やがて、見つけた物は、店員が薦める物より二桁少ない、赤サンゴの宝石だった。ここの赤サンゴは天然で、地球産だった。
「これを・・・」
 と言いかけて、彼は指のサイズがわからないことに気が付いた。思わず、呆然とした時、後ろから何者かが「ドン」とぶつかってきた。
 振り返ると、1人の女性がバランスをくずしている。シオンを避けようとして、さらに失敗して、シオンの胸に飛び込んできた。
 あわてて受け止めると、彼女のきれいな金髪が広がり、甘い匂いが感じられた。

「本当にごめんなさい。迷惑のかけ通しで」
 ぶつかってきた女性は、シオンに向かって頭を下げた。
「いや、気にすることはないよ」
 シオンはそう言いながら、顔が強張っていた。
 二人が今いる場所は、先ほどの貴金属店の隣の喫茶店である。向かい合って座ったが、改めて見ると、彼女は二十代の若々しさを感じる美人だった。貴金属店でも二人が抱き合ったとき、視線が集まったし、今、こうしている時も視線を感じる。もっとも、シオンはそんな視線に慣れていたが。
 彼女の名前を聞くと、ティガ・アンダーソンと名乗った。
 働いている場所などは聞かなかったが、今日は久しぶりの休暇で、街に出て、偶然立ち寄った貴金属店で、気に入った指輪を見つけたと聞いた。
 その指輪は現在、二人の間のテーブルの上に乗っている。
「でも、本当に良かったんですか?」
 実は、ティガの所持金では足りずに、シオンがほとんどを払ったのだ。その値段は、シオンが買おうとした赤サンゴの宝石より、二桁も高い物だった。
「いや、こっちも相談に乗ってもらったからね」
「明日必ず返しますから」
「いや、急がなくていいよ」
 シオンは先ほど会ったばかりの女性と話すのは慣れていない。どちらかというと苦手だ。困って、目の前のティーカップに手を伸ばした。ティガはそれを見て、
「ここの紅茶はおいしいと有名なんですよ。ぜひ、どうぞ」
 シオンは強張った顔のまま、一口飲む。確かにおいしかった。
「君も忙しいんだろ?次の休みの時でいいよ」
「そうはいきません。えーとシオンさんのご自宅はどちらですか?」
「いや、うちまで来なくていいよ」
 慌てて、手を横に振る。まさか、連邦軍の軍艦まで来てもらうことはできない。
「じゃあ・・・・・・。この喫茶店で待ち合わせはどうですか?」
 彼女は何故かうれしそうに言う。そのことにきづかないまま、シオンは了承した。


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