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あるこのつれづれ野球日記
あるこ
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2001年12月08日(土)
(野球日記なのに何故か)ミュージカルの話


 昨晩遅くに、友人から電話がかかってきた。
 「急な話やねんけど、“キャッツ”のタダ券もらってんか。明日やねんけど行っかへん?どうせ、ヒマやろ、自分」。
 ヒマ人代表に選んでいただいて光栄です。特に予定もなかったので、友人の誘いを快諾した。

 「キャッツ」は、劇団四季による超ロングランミュージカルだ。私のように、ミュージカルに無縁な人間でも名前だけは聞いたことがある。

 第1回大阪上演の1985年に阪神が優勝している。また、東京上演の時に巨人も優勝しており、「キャッツ」が上演された都市を本拠地にしている球団の優勝確率は実に80%を超えるというデータも出ている。今年は、大阪近鉄がリーグ優勝を果たしている。


 さて、生まれて初めて見たミュージカルは、実に素晴らしかった。何故もっと早く見なかったのだろうと思った。縁のなさをちょっと嘆きたくなったが、今からでも遅くはない。

 私はよく日記でも書くように、野球を見ているときに一種の「疎外感」を感じることがある。しかし、今日はその疎外感を感じることがなかった。演劇やミュージカルというものは、演じている側と見ている側が野球以上に(野球の場合は、演じているのではなく、プレーする側なのだが)明確に分かれているのだと思っていた。しかし、それは間違いだったのだ。

 キャッツの舞台は、都会のかたすみのゴミ置き場にあるのだが、劇場全体がゴミ置き場みたいに演出されているのだ。舞台にあるゴミのオブジェが、そのまま客席の壁に続いている。まるで自分も舞台の一部になっているような錯覚すら起こす…と言ったら大げさか。ただ、その演出に「劇は観客と共に作り上げていくんだ」という気持ちが汲めたし、仲間外れにされていないんだなと思うと嬉しかった。

 私は2階席中央にいた。収容人数1100人と大きくはない劇場なのだが、舞台は決して近くない。それほど興味のないものなら、この地点で冷める。昔、友人(前述の友人とは別人)と二人で安室奈美恵のコンサートに行ったことがあったのだが、あまりに遠すぎて、最後は、ステージを見ずに声だけを聞いていた記憶がある。また、別にアーチストのコンサートのときは、不覚にも眠ってしまったこともある。
 
 でも、今日は眠るわけにはいかなかった。劇中随所随所で、俳優の猫たちが、客席に散った。1階だけでなく、2階の私たちにところにも来た。濃い猫メイクがしっかり見えた。俳優さんの目、声、息づかいをしっかり感じた。(最後は、握手までしてもらえました!)これで、完全にお客さんを引き込んだと思う。野球とミュージカルは根本的には違うものなので、比べるのはナンセンスなのだが、外野席で見ているときに、選手が側でボールをさばいたり、素振りしているような感じなんですよ!これは、すごすぎます!

 前の席の観客はもっと凄くて、劇中に主役格の俳優さんが、観客から女の子を連れてきて舞台に上げた。前の席の子だったので、熱心なファンだと思う。きっとすごく感激しただろうな。自分が舞台に、それも劇中の演出の一つとして出ることが出来たのだから。登場人物の一人と言っても過言ではないのだ。私が彼女なら、「うち、“キャッツ”に出たことがあんねん」とかなり自慢してしまいそう…。

 2時間半の上演で、休憩が20分あった。お手洗いも、きれいでかなりたくさんあったので、スムーズに出来たし、また、この20分の間にサイン会も行われた。そのサイン場所はなんと舞台の上!さっきまで、熱演が繰り広げられた場所に立ち、憧れの俳優さんからサインをもらえるのだ。舞台にはきっと熱気が残っているのだろう。また、演じたばかりの俳優さんは猫のコスチュームのままでいるので、その汗や鼓動も聞こえてくるかもしれない。俳優さんはきっと疲れているはずだし、これからもまだまだ疲れなければならない。それでも、快くサインを引き受け、握手をする。

 演出、サービス面ばかりを書いたが、もちろんそれも良心的なファンあってのこと。劇中に俳優が観客席を駆け回ったり。舞台でサインをしたりするのは、ファンの良識やマナーを信じていないとまず踏み切れないと思う。劇場スタッフが、「後ろの方に配慮を」と呼びかけていたが、私が見受けるかぎりみな守っていた。ああ、ここには劇団と観客との間に強い信頼関係が築けているのだなと思った。すこし羨ましくなった。(第2幕が始めるときに、ブザーなどは一切鳴らなかった。サインをしていた俳優の談笑から、自然と演技が始まって行った。観客もそれをしかり把握しており、スムーズに劇の中に入っていけたのが印象的。ブザーやベルは人を縛り付けてる印象がする)


 帰宅して、劇団四季のホームページを見た。劇団四季の設立には、「市民に演劇を通して喜びや感動を提供すること、そして、演劇がもっと身近になって欲しい」という思いがある。文中に書いてあったことなのだが、元々日本人にとっては演劇は身近なものだったという。それが、時代の波に押され、そうではなくなった。そのため、今、演劇の普及のため、努力・奮闘をしている。

 “キャッツ”は、2回目の大阪上演で、関東の総動員人数を抜いた。パンフレットに寄稿したエッセイストはそれを受けて、「“キャッツ”は大阪のものになった」という。猫たちは、劇場を飛びだし、御堂筋パレードや天神祭に参加した。それもまた大阪に根付く要因の一つだったのだろう。


 劇団四季は、演劇界の危機を察して設立され、素晴らしい劇やサービスを提供している。野球界もまた、危機にさらされている。だが、だからこそ、今、本気になって野球に取り組めるのではないかと思う。多くの人間が野球の明日を切実に考える。野球がファンに浸透するためにはどうすればいいか、選手には求められているものは何か、またファンが考慮しなければならないこともあると思う。きっと、その先に、「答え」と輝かしい「野球界の未来」があると信じたい。

 そう、「ピンチのあとにチャンスあり」。
 野球界には素晴らしい言葉がある。