paranoia kiss
    

離婚した母を捜すには、
戸籍をたどっていった。
子供にできる権利らしい。

彼女の現在の住民票を手に入れた。
生きている。というだけで嬉しかった。
新しい家庭があるんだ。と。

こっそりと電話番号を調べた。
もし、誰かが出たら。なんて思いつつ、
片思いの子がするそれのように、
どきどきしながらダイヤルする。

どきっとした。
留守電だった。
今の彼女の娘の声で。
可愛い声だ。と僕は思った。
何度も何度もかけてしまった。
出ないのは当然で、
母は働いていた。

幸せそうな家庭に踏み込むことはできない。
連絡がなかったらそれまで。

だから、僕は今の写真を同封し、
電話番号を記し、封に収めた。

震える声で泪ながらに
電話をしてきた彼女の声が忘れられない。
20年以上も心で追っかけていたのに。
やっと。ようやく。繋がった。

---
君は僕が疲れて果てていると気づいている。
だから、何かしら力になるように
動いてくれるんだ。
それはそれで嬉しい。

やっぱり俺にはムリだった。
と照れくさそうに。
僕に戻ってきたたいせつなもの。

たいせつなものに翻弄されながら、
僕達の夜は更けていった。

---
7年前の今日、親元を離れ、恋人とも離れ
一人見知らぬ土地でやっていくことを
独断で決めてしまった。
5分も悩まず。

お昼に親に電話をし、話を受けたことを
事後承諾してもらう。
緊張しながら、あの人にも告げた。
あの人は、僕が呼び出された時点で
何もかもわかっていた。

あの日、断っていたら、
あの日、あの式場で幸せになってた?



2006年12月08日(金)



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