2001年10月06日(土) |
桐光学園、全国制覇を目指し No.3 |
桐蔭学園との準決勝は完敗に終わった。投手を中心とした「守り」に大きな差があった。桐光学園に注目するようになって2年弱。これほど完膚なきまでにやられた試合は初めて見た。10対3の大敗。来春のセンバツは、ほぼ絶望・・・。
勝敗は、2回表の桐蔭学園の攻撃でほぼ決まった。この回、打者一巡の攻撃で5点を奪い、試合の主導権を握った。だが、2回に生まれたヒットは3本だけ。3つの四死球と桐光守備陣のエラーを確実に生かし、大量得点に繋げた。 2回表、桐蔭学園はノーアウト1、2塁のチャンスを迎えていた。バッターは7番濱中。初球外角ストレートに対し、濱中はバントの構えからウエイティング。だが、バントを予測していたセカンドランナー吉田の離塁が大きく、キャッチャー船井の牽制球で刺される。状況は、ワンアウト2塁に。桐光は最初のピンチを乗り切ったように思えた。続く2球目、濱中は内寄りのストレートを強引に引っ張り、打球は三遊間深くへ。桐光のショート上宇都(かみうど)泰平がうまく回り込んで打球を処理。セオリーに反して三進を狙っていたセカンドランナーをサードで殺そうと、上宇都はサードへスナップスロー。次の瞬間。桐蔭スタンドから歓声が、桐光サイドからは悲鳴が上がった。上宇都の送球はホーム寄りにずれ、ボールはバックネットを転々とした。桐蔭の先取点は、エラーから生まれた。 場面はツーアウト2塁に。迎えるバッターは9番菊池。菊池が打った打球はショート前の平凡なゴロ。けれども、ショートの動きはスタンドから分かるほどガチガチだった。この回、2つ目のエラーを記録。守りの要がおかした痛すぎるエラーだった。 スリーアウトチェンジで終わったはずの桐蔭の攻撃が、このあと数十分続いた。満塁から走者一掃のタイムリーも生まれ、桐蔭ベンチは湧いた。もし今年ドラフトにかかったとしても「間違いなく上位で指名される」というほどの逸材である、桐蔭エース栂野を相手にいきなりの5点はこのあと重くのしかかっていった。 上宇都はこのあとも試合の流れに乗れていなかった。中継プレーのミス、ポテンヒットを生んでしまった消極的な守り。2回表のふたつのエラーが、プレーを小さくしていた。それは必然的に打撃にも影響した。今日の試合は準々決勝の7番から2番に抜擢されたが、栂野の140kmを超すストレートを芯で捉えることが出来ず、凡打を繰り返した。 上宇都がぎこちないプレーをすると、スタンドからは野次が飛んだ。「またショートかよ! 早く交替させろよ!」 打席に入っても同じだった。「代打出せよ!」 心ない野次だった。
3ヶ月前の夏の県大会。桐光学園はベンチ入り20人の中に3人の1年生が名を連ねた。今や準エースにまで成長した左腕・望月、スピードボールに特徴のある吉田、そして内野手でただひとり背番号を付けたのが上宇都だった。本職はショートだが、チーム事情からこのときはセカンドで試合出場を目指した。 夏の大会前、桐光の悩みは2番バッターが決まっていないことだった。主砲石井、藤崎にいかに繋げるか。2番の役割は大きい。「上宇都には2番バッターとして期待を懸けている」と野呂監督が名指しするほど、その実力を買われていた。初めてスタメン起用された3回戦の関東学院戦では2打数1安打とまずまずの活躍。だが、まだ信頼感がないのか、終盤の7回からはセンバツ時のレギュラーである丸に交替させられた。 5回戦、私学の強豪・横浜商工との試合でも上宇都は2番スタメン出場を果たした。この試合、序盤から1点を争う好ゲームが展開。少しのミスも許されない雰囲気だった。上宇都は2度打席に立つが結果は出ず。野呂監督は早目に選手交代を決断した。1対1で迎えた5回裏横浜商工の攻撃時から、上宇都をベンチに下げ、丸を守備につかせた。結果的にはこの采配が的中する。丸は延長11回に勝ち越しとなる決勝適時打を放ち、守備でも無難な守りも見せ、監督の采配に応えた。試合後、この交代について監督に訊くと「接戦になったときは、やっぱり経験の浅い上宇都よりは、3年生の丸を使ったほうが良いと思いました。局面での状況判断がまだ上宇都には足りないから」 期待はしているが、まだ完全なる信頼がない。あっさりと交代を告げられてしまう理由がそこにあった。
今日の桐蔭学園との準決勝。野呂監督は、最後の最後まで上宇都をベンチに下げなかった。9回裏、10対2と桐蔭学園リード。ツーアウト2、3塁で打席は回ってきた。ここまで桐蔭・栂野に対し4打数0安打。うち三振が2つ。上宇都よりも打撃力の優れた打者は控えにいたはずである。でも、ベンチは動かなかった。結果、上宇都は投手エラーで出塁した。夏の大会では、あっさりと交代させられていた上宇都だが、新チームとなった秋には不振に喘ぐ中でも「代えられない」存在になっていた。ミスをするとすぐに交代させる監督もいるが、野呂監督の場合そのような采配は見られない。「ミスは自分で取り返せ!」と選手を使いつづける。 エラーのシーンを見ながら、ふと思い出した試合があった。今春のセンバツ2回戦。東京代表の日大三は東福岡と対戦した。好カードとして注目を集めたが、終わってみれば8対3で東福岡が快勝した。ここまで点差が開いたのは、5回裏の日大三の守りのミスに原因があった。1イニングに3エラー。全て同じ選手がミスをしてしまい、一挙に5点を取られた。試合後、3つのエラーをおかしたセカンドの都築は誰よりも悔し涙をこぼしていた。 夏の甲子園に再び都築の姿があった。二遊間をおそう難しい打球を幾度となく処理。センバツで見せた守備の乱れがウソのように攻守を見せ、優勝に貢献。センバツでの汚名を自らの力で晴らした。
「あの子はほんとにセンス抜群の選手」と上宇都を指導したボーイズの監督はいう。上宇都はボーイズ時代、キャプテンとして全国大会で好成績を残している。夏に1年でベンチ入りを果たしたのも堅実な守備を買われてのことだった。 上宇都はまだ1年生。甲子園に行くチャンスは、まだ3回もある。都築のようにミスを取り返すチャンスは必ずやってくる。心ない野次を飛ばした者に、上宇都本来の実力を見せ付けて欲しい。 今度の公式戦は4月の春季大会。まだ6ヶ月も先のこと。大きくなって戻ってくる上宇都に期待したい。
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