11月3日から始まった東都大学野球の1部2部入れ替え戦を3試合とも観戦した。本当は土日だけの予定だったのだが、一番緊張感のある第3戦を見逃しては意味がないと思い、最終戦も神宮へ足を運んだ。 試合は、東洋大がドラフト候補でもある専大先発の酒井(4年・大宮東)を4回に捕まえ、2点を先制。投げては、第2戦に次ぐ先発となった上野貴(1年・帝京)が、9回途中まで本永(4年・西京)のソロホームラン一発に抑える好投。前日、1回3分の2でノックアウトされた屈辱を晴らした。9回途中からはエース山脇(1年・東洋大姫路)を投入し、3−2で接戦をものにし、1部残留を決めた。
試合後、球場の外にはベンチ入りした選手を出待ちする控え部員の輪があった。球場向かって右に専大、左に東洋大。最初に、負けた専大の選手が出てきた。ブレザーを着た野球部員は、大きな拍手で彼らを迎えた。集まった父母から「お疲れさま」と声が掛かる。選手は、待っていた部員たちと握手をする。ホームランを打った4年生の本永の表情には、負けた悔しさというよりは、4年間やり終えた満足感が見てとれた。 エースとして、キャプテンとして、チームを引っ張ってきた酒井が球場から出てくると、一際大きな拍手が上がった。酒井の目にも涙はない。第1戦では散発の3安打、14奪三振という見事な投球で完封勝利を挙げた。この日の第3戦では、5回2失点でマウンドを降りたが、終盤には一塁ベースコーチャーにつき、チームを後押しした。「後輩のために勝ちたかったんですけどね・・・」。記者の質問に答える酒井の声が聞こえた。自分の力を試すために、プロ入りを目指すという。 選手が全員出てくると、ベンチ入り、ベンチ外の選手、そしてマネージャー、応援団、卒業する4年生が集合し、写真撮影が始まった。数分前、1部昇格が叶わなかった悔しさは微塵も感じられない。みんなが、思い出の1枚に収まった。
遅れて、東洋大の選手も控え部員のもとへ集まってきた。1部残留を物語る、満面の笑顔があった。入れ替え戦で7打数4安打2打点と大活躍した5番の浦崎希(4年・PL学園)は、「のぞむ!のぞむ!」と名前を連呼する4年生部員に握手攻めにあった。専大の選手が写真を撮るほんの数メートル先で、東洋大選手たちによる歓喜の輪が出来あがっていた。
4ヶ月前。私がずっと追っていた神奈川・桐光学園は、夏の県大会決勝で横浜高校に敗れた。2年連続準優勝。夏の甲子園初出場は後輩たちに託された。 横浜高校の校歌が流れる中、選手たちは泣いた。3年生以上に涙に暮れていたのが、2年生部員だった。嗚咽するように泣いていた。 だが、4番を務めた藤崎は、すがすがしい笑顔を浮かべていた。泣きじゃくる下級生に「泣くんじゃねぇよ」と声を掛け、肩を叩いた。藤崎はベンチ上にいた知り合いを見つけると、「負けてしまったけど、悔いはないです。一生懸命やりましたから。悔いはないです」。「悔いはない」と、笑顔で2回繰り返した。 この藤崎の言葉を、私は一生忘れないと思う。それぐらい強烈な言葉だった。「悔いはない」と言い切れるだけの練習をしてきた自信が藤崎にはあった。決勝では、甲子園で活躍した横浜エース畠山から3ランホームランを放った。3年間の練習の成果は出せた。
満足した表情を浮かべる東洋大、専大の選手たち、そして藤崎の姿を思い出し、ふと思った。人生の節目で「悔いはない」「やり残したことはない」と、私は言えるのだろうか・・・。
野球から教えられることは多いと、改めて感じた。
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