前潟都窪の日記

2005年05月30日(月) 水蜜桃綺談5

 数日後長船から景光が幸山城へ呼び出された。                
「のう景光よ、お主の爺さまの光忠が打った刀は天下一品であったと聞いておるぞ切れ味といい右に出るものはなかったそうな」                    
「はぁ恐れいります。お館様にそのように我が御先祖様のことをお褒めに預かるとはまことに晴れがましゅうございます。刀鍛冶として家門の誉れに存じおります」     
「お主の父の長光もこれまた天下に比類なき名工と聞いておる。弘安の蒙古来襲(1282)の折に執権時宗公が蒙古の使者を成敗された刀がお主の父長光の打った刀だということは天下にあまねく知られていることだからのう」
「ははぁ、刀鍛冶として過分のお言葉。景光身に余る光栄に存じおります」      
「光忠、長光と我が荘家との付き合いも長いものじゃのう。光忠の打った刀を我が祖父が携え文永の役(1274)の折り、肥前の国へ出陣して以来の付き合いじゃ」     
「この乱世にあって、頼朝公以来の名門である荘家よりそのように長い年月御愛顧戴いたること、刀鍛冶として一門の誉れにござりまする」                 
「ところで、景光おりいって願いの儀がござる」                  
「ははぁ、これはまたなんでござりましょう。景光に出来ることでございますればなんなりとお申し付け下さいませ」                           
「ほかでもないが、我が息子虎丸のことじゃ。そちも承知の通り、虎丸は気立てが優しく、生き物を我が友として成長して参ったが剣術の腕前も相当上がったようで、このまま進んで剣術の腕が磨かれると兄弟達との間で争いが起こりかねないという虞れがある。この円念坊に預けて仏門の道を進ませようと考えていたのじゃが、研ぎ澄まされた刃の美しさに魅せられてしまったらしい。刀鍛冶になりたいと言うのでな。武芸を習わせるよりも刀鍛冶にして武士の魂を磨かせたほうがあの子の将来にとっても荘一族の将来にとってもよいのではないかと考えるのじゃが、そちはどう思うかの」      
「お館様、それは良い所にお気がつかれました。乱世の世の中でありますれば戦に命を掛けるのも一生。刀鍛冶になって武士の魂を作り磨くのも一生と心得まする」      
「そうか、それでは景光よろしゅうお願い申す。虎丸を頼みますぞ」


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