2005年06月29日(水) |
小説・弾琴の画仙浦上玉堂16 |
翌安永四年には岡山へ呼び戻されて、御供頭を仰せつかり官吏としての出世街道を驀進するのであるが、勤務の傍ら江戸で開眼した琴、絵画の道にも閑暇をぬすんでは精進するのであった。ここで感じられる兵右衛門の姿は効率的に業務をてきぱきと処理していく真面目な能吏でありながら、琴や絵画にも輝きをみせる才人というイメージである。 この年は家庭的にも充実した日々で母親茂が古稀を迎えたので祝宴を催しているし、長女の之が誕生している。 母親茂の古希の祝いに大阪の中井竹山は寿詞を贈っている。 備藩浦上氏母七十寿詞 行子帰養至自東 寿筵杯盤和気融 黄備城辺春鎮在 碧桃花下楽亡窮 錦衣併為班衣舞 因見当年断機功
行子 帰養するに東より至る。寿筵杯盤 和気融(やわら)ぐ。 黄備城辺 春 在に鎮まる。碧桃花下の楽しみ 窮まることなし。 錦衣 併せなる、班衣の舞。因りて見る 当年 断機の功
旅人は郷里に東より帰って、母の古希のお祝いをする。このめでたい席に多くの人と祝いの酒杯をかわし、和気あいあいたるものがある。吉備の城下もまさに春たけなわ、美しい桃の花は咲き誇り、楽しみは極まるところがない。酔うほどに舞うほどに着衣が翻る。 この年にあたり、母親の子を思う孟母断機の教えを今更ながら痛感する。
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