前潟都窪の日記

2005年07月31日(日) 三村一族と備中兵乱5

 「公家の 時代から武士の時代に変わったのじゃ。せぇなのに公家が経済的な基盤もないくせに権威だけ をかさにきて失地挽回を図ったのが建武の中興というわけじゃ。わしゃ、そう思うとるがのぉ」
と久次が言った。
「建武中興は時代の流れに逆行した政治ということになるのかのぉ」
と元資が言うと
「そうじゃとも、実力のない者が門閥、位階だけをたよりに威張ってみても誰もそんなもなぁ認めやせんのじゃ」
と宗親も漸く議論の中へはいつてきた。
「力の強い者が古いものを壊して新しいものを創りだしていくんじゃろうなぁ」
と久次がうなづきながら言うと
「今は、破壊の時代というわけじゃな」
と元資が言う。
「そうじゃ。だから、国が乱れた」
と久次。
「将軍が弱すぎるのじゃ」
と宗親。
「そうじゃ。時代は完全に武士の時代じゃ。
 まさに乱世じゃ」
と元資 
「乱世は力の強い者が勝つ時代じゃ」
と宗親
「下剋上の時代じゃ。主殺しでさえ通る時代じゃ」
と久次がエスカレートさせる。
「とは言っても、主殺しは忠の道に反しようが」
宗親は威儀を正しながら言った。
「そねえなことを言ようたら世の中の流れについていけんようになるぞ。時と場合によっては親でも殺す」
と久次
「親を殺す等は人の道に背くことに成ろうがのぉ。畜生になりさがってしまおうが」
と宗親は納得できないという顔付きである。
「例えばの話だ」
と久次。
「何故、武士が天下を統一できないんじゃろかのぉ」
と元資。
「圧倒的に力の強い武士がいないからじゃろうが」
と宗親。
「まてよ。今度は大内義興様が頑張りょんさるからなんとかなるのではないじゃろか」と久次が言うと
「義興様は管領になられて、幕府の重要な地位を占められたので乱世は終わりになるのじゃろか」
と元資も大内義興に期待しているらしい。
「将軍の権威が失墜してしもうたけぇ、命令が守られなくなっているからのう」
と宗親。
「ひょっとして、お館様は将軍にとって替わろうとしていなさるんじゃなかろうか」
と元資は自分の願望を述べる。
「これ、滅多なことを言うんじゃねぇ」
と宗親が唇に指をあてながら元資の顔を見る。
「尼子経久殿と大内義興殿とでは尼子経久殿のほうが実力がありそうに見えるんじゃがなぁ」
と元資が話題を変えた。
「尼子殿はもう年じゃけんのぉ」
と宗親。
「大内殿は雅びに走っしもうて、もののふの心を忘れとんさるけぇ、そう長くはないんじゃなかろうか」
と久次。
「それは言えるのぉ」
と元資。
「安芸の毛利興元殿は大内殿から名前を戴いたそうじゃな。羨ましいことじゃのぅ」
と久次が言った。
「いやいや、我等弱小国人は所詮は大内氏と尼子氏の間にあって要領よく生きていくのに汲々としているだけのことじゃろが」
と久次が言った。戦乱の時代に生きる地方の若武者達の談話はおのずと天下国家に及んでいくのである。都の一夜はこのようにして過ぎた。                                 


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