前潟都窪の日記

2005年10月08日(土) 縁日の金魚鉢 3

 3.
                         
 五菱銀行新宿支店を調べに行った田所刑事は預金係長に面会を求めた。
 応接室に暫く待たされた後、眼鏡をかけ頭髪を七三に分けたいかにも銀行マンらしい身だしなみのよい中年の男が愛想笑いをしながら入ってきた。
「どうも大変お待たせしました。どんな御用でしょうか」田所刑事がポケットから出して見せた警察手帳を覗き込みながら言った。
「ある事件に関係のある山本太郎という人物の身元を調べています。この普通預金通帳の名義人山本太郎さんについてお聞きしたいのですが」
「ちょっと拝見。この人は最近新しく口座を開かれたようですね」預金係長は渡された通帳をめくりながら答えた。
「住所は判りませんか」
「ちょっとお待ち下さい。資料を調べてきますから」
 預金係長が調べてくれた資料は次ぎのようなものであった。
 住所は、東京都大田区六郷○○で普通預金口座以外には取引がないこと。預金残高は千円であること。キャッシュカードを発行しており、通帳はオープンになっていること。電話番号の届け出はないこと。
「何ですか、そのオープンというのは」
「最近銀行では、お客様へのサービスと事務の合理化をはかるために、コンピューターを駆使したオンラインシステムを採用しています。つまり、五菱銀行の本支店であれば、どの支店からでもお金の預け入れ、払い戻しができるようになっているのです。オープンというのは通帳のここの所へお届け印が押されてありますね。このお届け印を使えばどこの支店からでも預金を払い戻すことができるのです」
「すると、新宿支店で口座を開いて預金した人が鹿児島支店からでも払い戻しできるということですね」
「そうです」
「となると、銀行ではこの届け印を使えば本人以外の人が引き出しに来ても払い戻しするわけですね」
「そうです。ですから私共では、お客様には万一盗難にあったときの用心に通帳とお届け印は別々に御保管戴くように呼びかけております」
「山本太郎さんから印鑑・通帳の盗難届けは出ていないでしょうか」
「目下のところ届け出はありません」
「残高は千円ということですが、お金の出し入れはありませんか」
「台帳の写しを持ってきましたが、最初千円の入金があって、その後10万円の振込が三回あります。払い戻しも10万円宛三回行われています」
                          
  日   付  お支払額  お預かり額  残高  
                          
 52. 9.10  D           1,000    1,000
 52. 9.12 FUR          100,000  1001,000
 52. 9.15  CD    100,000          1,000
 52.10. 1 FUR          100,000  1001,000
 52.10. 3  CD    100,000          1,000
 52.11. 5 FUR          100,000  1001,000
 52.11. 7  CD    100,000          1,000
                          
「日付の欄に書かれているD,FUR,CDという記号は何ですか」
「D というのは現金で預け入れしたという意味です。FUR は振込入金です。CDはキャッシュディスペンサーつまりキャッシュカードを利用して自動支払機からお客様が御預金を払い戻されたという意味です」
「なるほど、すると山本太郎なる人物は、自動支払機から三回とも金を引き出したから銀行員とは窓口で接触しなくても済むということになりますね」「その通りです」
「最初に千円預け入れしたときはどうですか」
「新規に口座を開設される場合には、色々手続きがありますので、窓口で必ず応対することになります」
「最初契約したときの書類には本人の筆跡は残されているでしょうね」
「ええ、住所氏名とお届け印を登録して戴きますので、自筆の筆跡は原簿を見れば判ります」
「それでは、本人の筆跡をコピーして下さい。それから9月12日,10月1日、11月5日の3回の振込は何処の銀行から誰が振り込んだか判りませんか」
「一寸時間がかかりますが、調べればわかります。ただ私どもではお客様の大切な財産をお預かりしておりますので、お客様に御迷惑がかかるようなことになりますと困ります。私の立場上も・・・・・・」
「勿論あなたに迷惑のかかるようなことはしませんよ。この事件には殺人が絡んでいるので協力して戴けませんか」
田所刑事の強い口調に意を決したらしく預金係長は困惑した顔をしながら女子行員に伝票を調べるように命じた。
「キャッシュカードと言うのは誰にでも簡単に使えますか」日頃銀行とはあまり縁のない田所刑事は幼稚な質問だなと思いながら聞いてみた。
「扱い方自体は極めて簡単ですから誰にでもつかえます。当店にも玄関を入った所に置いてありますから、後でご覧になって下さい」
「もしキャッシュカードを盗まれたらどうなりますか」
「盗難に気がついたら、すぐお届け戴くようにお願いしております。お届けがありますと直ちにそのカードが使えなくなるようにコンピューターに指令を出します」 
「キャッシュカードの盗難に気がつかなかった場合には」
「キャッシュカードには暗証というものがありまして、通常4桁の数字が使わています。この暗証はご本人しか知らないので、他人にはカードは使えません。それにキャッシュカードは3回間違った操作をすると以後はそのカードは使えなくなるように設計されています」
「暗証を知られてしまった時は」
「残念ながらその時はお手上げです」
「暗証が4桁の数字だと覚えておくのが大変でしょうね。本人が忘れてしまったときはどうなります」
「その時はカードは使えません。しかし忘れないように、御自分の生年月日とか御自宅の電話番号をお使いになればこのことは防げます」
「山本太郎のキャッシュカードの暗証を教えて貰えませんか」
「刑事さんそれだけは勘弁して下さい。捜査令状でもお持ちなら止むを得ませんが法的な根拠なしにそこまでお教えすると私が首になってしまいます」 田所刑事は強制捜査ではないので、それ以上の無理強いはできなかった。


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