前潟都窪の日記

2005年10月09日(日) 縁日の金魚鉢 4

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 田所刑事が、五菱銀行新宿支店から持ち帰った資料が捜査会議に提出された。
「山本太郎という男の身元を割り出す必要があると考えましたので、五菱銀行から聞き出してきた住所地の太田区六郷○○へ行ってみました。この番地に建物はなく、五年程前から貸し駐車場として使われています。地主は近所に住む米屋なので、山本太郎という人物が近所に住んでいるかどうか尋ねてみましたが、聞いたことのない名前であると言うのです。念のために区役所で山本太郎を同所同番地で調べてみましたが、住民登録もされていません」 田所刑事は捜査会議で考えを纏めながら報告した。

「山本太郎が実在しない人物で偽名であるとすれば、死んだ田代光一と同人物である可能性も出てきます。五菱銀行新宿支店から入手してきか山本太郎の筆跡と田代光一の筆跡を鑑識で調べて貰いましたところ、田代光一と山本太郎は同一人物の可能性が極めて強いということです。そこで、田代光一が山本太郎という偽名をつかって預金口座を開設した理由が問題になってくると思います」
「つまり、表向きに出来ない金を預けるために偽名口座を開設したということですか」田所刑事の説明をうなづきながら聞いていた青山刑事が横から口をはさんだ。
「そうです。山本太郎名義で開設された預金口座は、田代光一が人目をはばかる黒い金を出し入れするために開設したものと考えられます。しかも、預金は振込であり、払い出しはキャッシュカードが利用されています。自動支払機から現金の払い出しをすれば、伝票に筆跡も残らないし、銀行の窓口で係員に顔を見せる必要がありません。五菱銀行新宿支店で調べたところによりますと、9月15日の振込は東邦銀行銀座支店より、サカモトタカシ名義で行われていました。10月1日の振込は千代田銀行神田支店よりフジカワケンイチ名義で、11月5日のは邦国銀行川崎支店よりナカガワツトム名義でそれぞれ振り込まれていることが判明しました。なお、何れも現金で振り込まれています。これから先は私の推測になりますが、サカモトタカシ、フジカワケンイチ、ナカガワツトムも偽名ではないかという気がします。振込地銀行へ行って調べればサカモトタカシ、フジカワケンイチ、ナカガワツトムの漢字名と住所は判りますから、実在の人物か架空の人物かはすぐ判ると思います。もし、これら3人の人物が実在していれば、山本太郎こと田代光一との関係を問いただすことにより、今回の事件のある程度の輪郭がはっきりするだろうと思います」

 田所刑事の報告は捜査会議の出席者に事件解決への明るい希望を持たせるものであった。
「山本太郎名義の普通預金口座開設後、少なくとも6回金の出し入れがあったのに山本太郎は何故か通帳に記載して貰っていない。金の預け入れは他行よりの振込み、引き出しは自動支払機からとくれば、何か犯罪に利用されているという臭いがするね。しかも、死んだ田代光一は商品取引で大穴をあけているから、田所刑事のいうように田代光一と山本太郎が同一人物とすればフジカワケンイチ、サカモトタカシ、ナカガワツトム達を恐喝していたのかもしれない。先ず振込み人の身元を洗ってみよう」           
 議長は一つの捜査方針を打ち出して捜査会議を終えた。

 直ちに、東都銀行銀座支店、千代田銀行神田支店、邦国銀行川崎支店へ係員が派遣されサカモトタカシ、フジカワケンイチ、ナカガワツトムについて聞き込みが開始された。サカモトタカシは坂元高志で住所は横浜市中区寿町○○、フジカワケンイチは富士川健一で住所は東京都山谷△△△、ナカガワツトムは仲河 勉で住所は東京都千代田区丸の内×××ということが判明した。各銀行に聞き込みに廻った捜査員は振込依頼書のコピーを入手して表示されている住所地へ裏付け調査に出向いた。

 表示されている住所地はいずれも実在したが、該当する番地には坂元高志富士川健一、仲河 勉のうち誰も住んでいなかった。
 坂元高志の住所地は横浜市の簡易宿泊街で、表示されている番地には公衆便所が建っていた。
 富士川健一の住所地も東京の簡易宿泊所が多数存在する地域で、山谷△△△番地には大衆食堂「誠食堂」が労務者相手の店を出していた。
仲河 勉の千代田区丸の内×××番地は日本の代表的なオフィス街であり、示された番地には30階建ての高層ビルが建っており、昼間は1万人近くの人々が出入りするが、夜間は警備会社のガードマンが数人駐在するだけというところである。
 一方入手した振込依頼書を筆跡鑑定したところ、書体は変えてあるが、坂元高志、富士川健一、仲河 勉の筆跡には極めて高い類似性が証明された。つまり3人は同一人である可能性の強いことが示唆された。
 山本太郎の筆跡は坂元高志、富士川健一、仲河 勉の何れとも類似性はなく、別人であろうと推定された。
 捜査本部では、五菱銀行新宿支店に開設された山本太郎名義の口座を介して、坂元高志、富士川健一、仲河 勉という三つの偽名を持つ謎の人物Xと死亡した山本太郎こと田代光一の間に金銭の授受があったものと推定した。 ここにきて田代光一の死亡事件は他殺の疑いが濃くなり、殺人事件として本格的に捜査することになった。
 坂元高志、富士川健一、仲河 勉という三つの名前を持つ謎の人物はミスターXと呼ばれることになり、ミスターXを捜し出すことに重点が置かれたが、捜査は最初から困難が予想された。ミスターXに関する資料があまりにも乏しかったからである。
 坂元高志、富士川健一、仲河 勉がそれぞれ、9月12日、10月1日、11月5日に立ち寄った東都銀行銀座支店、千代田銀行神田支店、邦国銀行川崎支店で当日振込依頼を受け付けた窓口の女子行員にどんな人相風体の人物であったかと尋ねたが、誰も記憶していなかった。
                                  
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